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日高山脈が国立公園に指定

念願だった日高山脈が、ようやく国立公園に指定される 

今日の北海道新聞の一面、日高山脈が来月6月中に国立公園指定を掲載。

 

日高山脈の中央部分を貫く自動車道路の着工と中止

 時は1979年まで遡る。日高横断道路工事は1979年昭和54年1月に北海道開発局が日高中央横断道路調査費として大蔵省予算500万円を計上した時から、北海道はもとより全国の日高山脈自然環境保全の運動が始まる。なんと45年も前の事。

 2003年2月7日、北海道はもとより、全国の日高山脈保護運動の力は、1984年10月15日に道路工事が着工するが、堀達也北海道知事の発言日高横断道路に関する「道の評価調書や道政策評価委員会の意見書を踏まえ、総合的に判断した結果、北海道管理区間の未改良区間は当分、新規の改築工事は行わないこととする」と表明して道路工事が止まる。

 山懐深い部分の国の工事部分は、2003年8月8日、北海道開発局が審議委員会の答申などから、開発道路部分の未着工部分の事業中止を決定。

 ちなみに、日高中央横断道路とはどの様なものだったのか。その道路工事名は道道静内・中札内線と呼ぶ。その内容は、日高側静内町の一般道々高見・静内停車場線から分岐する静内ダムサイトを日高側の基点とし、静内川沿いにナナシの沢からコイボクシュシベチャリ川源流1823m峰中腹標高680mをトンネルで貫け、十勝側は札内川七の沢へトンネルで出て、札内川沿いに下り上札内の道々清水・大樹線へ至る。総延長75キロメ-トル、北海道開発局部分24、5キロメ-トル 橋梁15.3キロメ-トルの計画。1823m峰中腹のトンネルは4.4キロメ-トル。1984年10月に着工され完成まで20年、頭初予算296億円だったのが、2000年時点で、国直轄工事部分の進捗状況は16%。今後完成まで30年1,275億円としているが、北海道が試算した着工からの現状決算を見ると1,275億円が虚数に見え4,000億円が予想される、としてる。

 

登山団体と自然保護団体は国立公園指定を環境省に要請

 日高の道路工事が止まり、2006年1月30日と3月18日に、その工事反対活動を繰り広げていた山岳団体と自然保護団体の12団体は、日高山脈全域の国立公園指定を環境省と北海道、そして林野庁へ要請。

 なんと45年間の気の遠くなるほどの永い運動と、日々の活動の努力がようやく実を結ぶのだ。国立公園指定は、今後永劫にその全域の自然環境にとって、無駄な道路やスキ-場・ゴルフ場などの開発行為を許さない、ことにつながる。我が国最後に残された原生の自然環境が保全される、ことになる。

 

 今回は、環境省へ提出した日高山脈を国立公園に指定する要望書を、ここに掲載し、次回に前述した日高横断道路建設反対活動の全部をアップすることとする。

 

環境省へ提出した日高山脈を国立公園に指定する要望書

 

                         2006年1月30日

環境大臣 小池百合子 様

               (社)北海道自然保護協会 会長 佐藤 謙

 

                            2006年3月18日

 環境大臣 小池百合子 様

                 北海道自然保護連合 代表 寺島 一男

                 沙流川を守る会 会長 山道 康子

                 日高山脈を守る会 会長 安井 幸紀

                 ユウパリコザクラの会 会長 梅木 久嗣

                  南北海道自然保護協会 会長 宗像 和彦

                  千歳の自然保護協会 会長 明野 幸久

                  大雪と石狩の自然を守る会 会長 寺島 一男

                  十勝自然保護協会 会長 安藤 御史

                  日高山脈ファンクラブ 会長 樋口 和生 

                                                                NPO真駒内芸術の森緑の回廊基金 

                                                                                                       会長 小林 保則

                 北海道勤労者山岳連盟 会長 安田 治

 

日高山脈と夕張山地を新たな国立公園に指定することの要望書 

 北海道の日高山脈と夕張山地の主要部は、現在、日高山脈襟裳国定公園(昭和56年10月1日指定・公園面積10万3千ha)および富良野芦別道立自然公園(昭和30年4月19日指定・公園面積3万5千ha)に指定されています。その特徴(別記説明書参照)の要点は、①日本には類例のない特異な地史をもつ構造山地で、氷河地形や蛇紋岩メランジュ帯を含み、②固有種に富む高山植物群落や亜寒帯性森林が発達し、野生動物の生息環境としても優れ、③原始性が豊かで日本最大の原生流域(環境白書・平成13年版)を包含するなど、わが国の風景を代表するとともに、世界的にも誇り得る傑出した自然の風景地です。

 また、④想定される公園区域のほぼ全域が国・公有地(林野庁国有林、北海道有林)で、自然環境保全に適しているばかりでなく、⑤農業・畜産業・林業・地下資源の開発や道路建設など、各種の開発による自然破壊の恐れが少なく、⑥主要な山岳や渓流は、登山などアウトドア活動や野外自然教育の利用に供されております。

 とくに近年は「夕張岳の高山植物群落と蛇紋岩メランジュ帯」の天然記念物指定(文化庁、平成8年)、国有林経営が「国民の森林」として木材生産重視から公益的機能重視へ転換(平成11年)、道有林経営の木材生産を目的とする皆伐・択伐の廃止(平成13年)、主要道道静内中札内線(日高横断道路)の建設中止(北海道、北海道開発局、平成15年)など、自然環境保全にとって有利な状況が生まれております。したがって国有林当局および道有林当局の理解と協力が得られるならば、ほぼ全域が特別保護地区と第一種特別地域からなる、事実上の「営造物公園」に相当する国立公園を実現できる可能性を秘めております。

 このような特徴は、環境省が定めた「自然公園選定要領」の第一要件(景観)、第二要件(土地)、第三要件(産業)、第四要件(利用)のすべてにおいて、高い評価が得られる資質を有しています。北海道には、すでに阿寒、大雪山、支笏洞爺、知床、利尻礼文サロベツ釧路湿原の6カ所の国立公園が指定されておりますが、自然公園選定要領によれば、国立公園は「第一乃至第四の要件を具備するものについては配置を考慮しない」、すなわち箇所数にこだわらず選定すべきこととされております。

 さらにまた、IUCN(国際自然保護連合)の United Nations List of Protected Areas 2003によれば、日本の国立公園の大部分は私有地などを含む「地域制公園」の特性を反映して、カテゴリーⅤの景観保護地域に区分されていますが、日高山脈と夕張山地は、想定される公園区域のほぼ全域が国・公有地で、地域住民の集落も存在しないため、カテゴリーⅡの国立公園、すなわち、 現在と将来の世代に一つ以上の生態系を完全な状態で保護する、 その地域の指定目的に反する開発や居住を排除する、 環境と文化に調和した、精神的、科学的、教育的活動と、レクリエーションと観光客のための機会の基盤を提供する、という国際的な国立公園の定義に合致し、日本では数少ないカテゴリーⅡ型の国立公園になり得るものと考えられます。

 現在の日本の28カ所の国立公園はすべて20世紀に指定されたものですが、国土の土地利用の実態を踏まえれば、21世紀に国立公園の量的拡大を図ることは、もはや困難になっています。そうした中で求められるのは、国立公園の質的な充実を図ることです。それは国立公園の観光開発を促進することではなく、自然公園法改正(平成14年)で新しく国などの責務とされた「生物多様性の確保」にも大きく貢献できる、カテゴリーⅡ型の実態を備える国立公園を少しでも多くすることです。日高山脈と夕張山地を新しい国立公園に指定することは、そうした観点からもきわめて意義の深いことと考えます。

 したがって環境省は、林野庁、北海道との連携を密にして、国民や道民の意向も汲みながら、関係資料を収集して客観的に評価し、その上で日高山脈と夕張山地を国立公園候補地に選定し、中央環境審議会に諮問するなど、国立公園指定に向け特段のご尽力をくださるよう、要望いたします。

 なお林野庁長官および北海道知事に対しては、本要望書の写しを添え、別紙写しのとおり要望いたしましたので、申し添えます。

(別記説明書)

 

   国立公園候補地としての日高山脈・夕張山地の特徴

 国立公園として想定される区域は、現在の日高山脈襟裳国定公園(面積10万3千ha)および富良野芦別道立自然公園(面積3万5千ha)を中心におき、やや拡張した範囲を、また夕張山地は夕張岳・芦別岳・崕山を主体とする範囲(山麓のダムなどは除外)を想定することが望ましい。なお日高山脈と夕張山地は飛び地の関係となる。

 それらの国立公園候補地としての特徴と資質は、次の7点に集約することができる。

 

1. 日本では類例のない特異な生い立ちと地形

 日高山脈と夕張山地は、北海道の脊梁山脈の一部を構成する、標高千数百~2千m級の構造山地で、火山地形の多い日本の国立公園の中で、日本を代表する非火山性の「構造山地連峰」の景観形式である。しかもその成立過程は、日本には類例のない特異な、プレートの接近、衝突、隆起に起因している。

 すなわち日高山脈は、白亜紀以降の北米プレートとユーラシアプレートの収束過程において、北米プレートの一部をなす島弧性プレート(北海道東部)が西方のユーラシアプレートとの間にあった海洋性プレート(北海道中部)に衝突、衝上したため、地下深部で高温・高圧のもとで変成・変形してできた島弧地殻岩石が隆起し、形成された。現在、日高山脈の東側から西側へ山脈に平行な帯状配列をしている、ホルンフェルス・片岩・片麻岩・グラニュライトなどの変成岩や、花崗岩・トーナル岩・ハンレイ岩などの深成岩は、この島弧地殻(プレートの上部)の岩石である。その一方、山脈のさらに西側にはかっての海洋性プレート(地殻)の岩石であるオフィオライトが見られ、島弧地殻岩石が日高主衝上断層にそってこの海洋地殻岩石にのしあがっている。したがって、日高山脈を東から西に横断すると、かっての島弧地殻の浅部から地下25kmを超える深部の岩石、さらに海洋地殻の岩石が観察できる。日高主衝上断層にそっては、さらに深部のマントルの岩石(カンラン岩)が見られる。国の特別天然記念物に指定されている山脈南部のアポイ岳はこの地下100kmを超える深部の岩石からなり、マントル研究から世界的に注目されている。

 このように、地下深部にいたる島弧(大陸)地殻の岩石の存在状況や相互関係を、地表で観察できるところは、日高山脈のほか、アルプスのイブリア帯やヒマラヤのコヒスタン帯などが知られるのみで、世界的にもきわめて貴重な研究・教育のフィールドである。

 また新第三紀末から第四紀更新世にかけ、日高山脈の隆起が加速されたため浸食が激しくなって、鋭い稜線と急峻な斜面、深い渓谷をもつ山岳地形が形成され、さらに更新世後期の複数回の氷期には、主脈の東側に100カ所を超えるカール(氷河地形)が発達し、日高山脈の山岳景観を特徴づけている。なお日高山脈の最南端は、約2万年前のマンモスの臼歯化石で知られる襟裳岬岩礁となって海中に没し、特有の優れた海岸景観美を形成している。

 一方の夕張山地は、前記の北米プレートとユーラシアプレートとの間にあった中生代の海洋性プレートの岩石が、プレート収束による東側からの圧力の影響を受けて隆起し、形成されたものである。海底火山に由来する枕状溶岩が芦別岳などの山体を形成し、夕張岳ではカンラン岩から変質した蛇紋岩が他の岩石塊をとりこんだメランジュ(起源の異なる岩塊の混合)をなし、それらが浸食からとり残されたノッカー地形をつくるなど、特異な山岳景観が特徴となっている(夕張岳の蛇紋岩メランジュ帯は高山植物群落とともに天然記念物指定の根拠とされた)。

 以上のように日高山脈と夕張山地は、日本列島形成史の中でも特異な存在であり、その山岳は急峻、雄大で、しかも多数のカールが見られるなど、優れた山岳景観を有し、次に述べる植生景観、原始性などと併せ、日本の風景を代表するに足る傑出した自然の風景地である。

 

2.原始性の豊かな森林と固有種に富む高山植物など

 日高山脈と夕張山地の植生は、大半が冷温帯から亜寒帯へかけての特徴を示すが、地形・地質の影響を受けて、この地域特有の生態系が成立している。

 日高山脈は急峻な地形のため、とくに東側では雪崩の影響により針葉樹林が少なく、ダケカンバ林が優勢となっているのに対し、西側には針葉樹林がよく発達する。西側の針葉樹林のうちでも、とくに南部の幌満付近には温帯性のゴヨウマツ群落(国の天然記念物)、北部の沙流川源流域には亜寒帯性のエゾマツ・トドマツ群落(国の天然記念物)が見られ、主稜線部はハイマツ帯となっている。それに対して夕張山地では、落葉広葉樹林、針葉樹林、ダケカンバ林、ハイマツ帯の順序で植生の垂直的な帯状分布が認められる。いずれの山地でも植生の大部分が植生自然度9(自然林)~10(自然草原)を示し、植林地は少なく、原始性が豊かである。

 またカンラン岩や蛇紋岩の基盤を有する山域では、超塩基性岩植物に特徴づけられる高山植物群落が発達している。すなわち、日高山脈南部のアポイ岳では標高が800m程度と低いにもかかわらず、中腹から山稜にかけてアポイカンバ、ヒダカソウ、エゾコウゾリナなどの固有種に富む高山植物のお花畑(国の特別天然記念物)が見られ、夕張岳では、ユウバリソウ、ユウバリコザクラ、シソバキスミレ、ユキバヒゴタイなどの固有種(ユキバヒゴタイは夕張岳と日高山脈に限った固有種)を含むお花畑(国の天然記念物)が広がっている。さらに崕山では石灰岩植生が発達し、石灰岩植物のキリギシソウ(固有亜種)やオオヒラウスユキソウなどが見られる。

 ちなみに日高山脈と夕張山地の北海道固有植物(固有種・固有変種など)の数は、研究者により若干の相違があるが、日高山脈では23分類群、夕張山地では22分類群を数え、大雪山の14分類群、知床の4分類群と比較して、圧倒的に多い特徴がある。

 このような険しい地形と自然性の豊かな植生に支えられ、日高山脈と夕張山地は野生動物にとっても優れた生息環境となっている。大型哺乳類では特別な固有種はないが、エゾヒグマやエゾシカの生息密度が高く、とくに日高山脈のカール付近などでは、エゾヒグマが出没することが稀ではない。またカールのモレーン(氷河作用で削られた岩塊の丘)などは氷期の遺存種とされるエゾナキウサギの生息の場となっており、山頂部だけでなく中腹の森林地帯の岩場にもエゾナキウサギ(夕張岳では保護に留意すべき地域個体群)が生息している。その他、エゾクロテン、キタキツネ、エゾオコジョ、ホンドイタチなどの姿を見ることができる。

 野鳥も森林や高山の植生を反映して豊かで、森林帯にはクマゲラ(国の天然記念物)をはじめ、エゾライチョウコマドリ、コノハズク、キクイタダキなど、また高山ではギンザンマシコ、ホシガラスなどが見られる。昆虫では高山蝶として、ダイセツタカネヒカゲ(国の天然記念物)、カラフトルリシジミ(国の天然記念物)などが生息し、またヒメチャマダラセセリ(国の天然記念物)はアポイ岳が日本で唯一の隔離分布地となっている。なお襟裳岬では、ゼニガタアザラシ(絶滅危急種)を身近に観察することができる。

 

3.日本最大の原生流域

 前記のように日高山脈と夕張山地は自然性の豊かな植生と野生動物に恵まれているが、それは「原生流域」の広さからも裏づけることができる。原生流域とは、面積が千ha以上にわたり、道路やダムなどの人工工作物および森林伐採などの人為的影響の見られない河川流域のことで、『環境白書』(平成13年版)は全国の原生流域のベストテンを掲げている。その5位までを挙げると、①日高山脈襟裳国定公園・47,820ha、②大雪山国立公園・16,930ha、③白神山地自然環境保全地域・12,648ha、④磐梯朝日国立公園・12,520ha、⑤越後三山只見国定公園・10,762ha、となっている。ちなみに昨年、世界自然遺産に登録された知床国立公園は4,870haで10位である。

 すなわち日高山脈の「手つかずの自然」の広さは、2位以下を大きく引き離して全国一の規模を誇っている。このような原始的な自然環境は生物多様性の観点からも重要な地位を占め、国立公園などにおける「生物多様性の確保」は自然公園法改正(平成14年)により国などの責務に加えられている。したがって「新・生物多様性国家戦略」の上からも、国の責務として国立公園に指定し、「国土における生物多様性保全の骨格的な部分、屋台骨としての役割を、より積極的に担っていく」ことが重要である。

 また日高山脈襟裳国定公園の主要部は「わが国の主要な森林帯を代表する原生的な天然林」として、林野庁が「日高山脈中央部森林生態系保護地域」(面積66,353ha)に設定しており、これは日本最大の森林生態系保護地域である。

 さらに生態的ネットワーク形成の観点から見ると、日高山脈襟裳国定公園大雪山国立公園を結ぶ稜線部分は、林野庁の「緑の回廊」(大雪・日高「緑の回廊」)が設定されているので、日高山脈を国立公園とすることにより、よりいっそう強力な有機的ネットワークを機能させることができる。

 

4.ほぼ全域が国有林と道有林

 日高山脈と夕張山地は、どの範囲を国立公園区域とするかによって異なるが、仮に現在の国定公園と道立自然公園区域で試算すれば、97%以上が国有林と道有林によって占められることになる。すなわち、現在の日高山脈襟裳国定公園は面積103,447haのうち、88,807ha(85.8%)が国有林、12,221ha(11.8%)が道有林で、合計97.6%が国・公有地であ る。また富良野芦別道立自然公園は面積35,756haのうち、34,522ha(96.5%)が国有林、393 ha(1.1%)が公有地である。それを総計すると、139,203haのうち123,329ha(88.6 %)が国有林、12,614ha(9.0%)が公有地(大部分が道有林)で、全体の97.6%が国・ 公有地となる。これは既存の28国立公園の平均国有地率61.6%よりはるかに高く、大雪山国立公園の99%についで第2位の高い国・公有地率である。

 しかも国有林の経営は、平成11年に抜本改革が行われた。『林業白書』(平成11年版)は、「国有林野の抜本的改革の基本的な考え方は、国有林野を『国民の共通財産として、国民参加により、国民のために』管理経営し、名実ともに『国民の森林』とすることにある。…これまでの木材生産に重点を置いた管理経営から、国土の保全などの公益的機能の発揮に重点を置いた管理経営へと転換することにしている」と記している。

 そして当該地域の国有林の大部分は、水土保全林、森林と人との共生林で、資源の循環利用林はきわめて僅かである。したがって当該地域では、国有林の管理経営目的を国立公園の目的に一致させることが、もっとも有効かつ適切な公益的機能の発揮に連なるといえる。

 また道有林も平成13年に経営方針を抜本転換し、「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止し、…公益性を全面的に重視した道有林の整備を推進」する(『北海道森林づくり白書』・平成14年版)こととなった。

 したがって日高山脈と夕張山地のほぼ全域は、事実上の特別保護地区と第一種特別地域に相当する、「営造物公園」に匹敵する、質の高い自然環境保全施策を実現できる潜在的可能性を有していることになる。

 

5.農林業など開発の可能性が少なく日高横断道路も建設中止

 日高山脈と夕張山地は前記のように、ほぼ全域が国有林と道有林で積極的な木材生産が行われる予定はない。また国有林・道有林内には地域住民の集落がなく、国土利用計画法に基づく土地利用基本計画でも、当該地域は「森林地域」と「自然公園地域」の重複地域であり、「農業地域」は該当していない。したがって将来とも農地や草地の造成などが行われる見込みはなく、また宅地開発などの行われる可能性もない。

 鉱業権の状況は未確認であるが、現在操業中のところは幌満付近のカンラン岩採取がある程度で、その他の鉱種は、たとえ試掘権・採掘権の設定がなされていたとしても、採掘される可能性は低いものと思われる。

 近年の日高山脈で行われていた最大の建設事業は、主要道道静内中札内線(日高横断道路・静内町から日高山脈の主稜をトンネルで横断し中札内村に至る開発道路、北海道と北海道開発局が区域を分けて施工)で、昭和59年に着工されたが、自然保護の反対世論が盛り上がり、財政事情の悪化もあり、北海道知事は平成15年に未完成のまま建設を断念し、北海道開発局長も同年、工事を中止した。工事区間は主稜線に予定されたトンネル部分には及んでいない。

 また夕張岳では、昭和60年代のリゾートブームを背景に、大手観光デベロッパーにより大規模なスキー場開発が計画されたが、やはり自然保護世論の反対があって計画が撤回され、さらに天然記念物指定を求める世論に押され、山頂部が国の天然記念物に指定(平成8年)された。

 このように日高山脈と夕張山地は、各種の開発事業による自然破壊の恐れは少なく、自然環境保全施策を強力に進められる可能性をもっている。

 

6.登山の聖地で典型的なバックカントリー

 日高山脈の大部分は、一般的な登山歩道の整備はなされておらず、アメリカの原始地域・バックカントリーに相当するような原始的地域が多い。そのため登山関係者からは「日高山脈は登山の聖地」として、崇められながら親しまれている。その一方、アポイ岳は一般的な登山ハイキングや自然観察会に適し、また最高峰の幌尻岳(2052m)は深田久弥の「日本百名山」のひとつであることから、多くの登山者が訪れている。

 そうした登山者などのため、幌尻山荘、ニイカップポロシリ山荘、ペテガリ山荘、神威山荘、楽古山荘、戸蔦別ヒュッテ、札内ヒュッテなどの(非営利的)山小屋が整備されており、また山麓周辺地域には、日高山脈館(日高町)、アポイ岳ビジターセンター(様似町)、日高山脈山岳センター(中札内村)、夕張市石炭博物館(夕張市)など、野外自然教育や情報提供施設が公的に整備されている。

 

7.IUCNの国立公園定義に合致

 IUCN(国際自然保護連合)では各種の自然保護地域を6種類のカテゴリーに区分し、各国ごとの自然保護地域のリストを公表している。

 そのうち国立公園はカテゴリーⅡで、その定義は、 現在と将来の世代に一つ以上の生態系を完全な状態で保護する、 その地域の指定目的に反する開発や居住を排除する、 環境と文化に調和した、精神的、科学的、教育的活動とレクリエーションと観光客のための機会の基盤を提供する、となっている。これはアメリカ型の「営造物公園」を意識した定義といえる。

 しかし日本の国立公園は民有地などを含む「地域制公園」の制度であるため、多くの国立公園の実態はこの定義に合致せず、カテゴリーⅤの景観保護地域に区分されている。景観保護地域の定義は、「長年にわたる人と自然の相互関係が、その地域に重要な美的、生態学的あるいは文化的価値、ときには高い生物多様性などの明瞭な特徴を作りだしてきた地域で、このような人と自然の相互関係が保全されることが、地域の保護、維持、発展のためきわめて大切な地域」とされている。

 そうした中で、日高山脈と夕張山地はほぼ全域が国・公有地で、しかも「指定目的に反する開発や居住を排除する」ことが実現できる可能性を有しているので、当該地域が国立公園となれば、日本では数少ないカテゴリーⅡ型の国立公園として、「現在と将来の世代に一つ以上の生態系を完全な状態で保護する」ことに貢献できることになる。

 なおIUCNのリストは数年ごとに公表されるが、1997年版と2003年版での日本の国立公園に対するⅡ型とⅤ型の区分には差異、ばらつきがあり、その評価は定まったものとはいえない。しかし、いずれにしても日本の「地域制公園」の多くがⅤ型となる傾向の中で、Ⅱ型の実態を備える国立公園が新しく生まれる意義は大きいものといえる。

 

日高横断道路 中札内側7の沢「照林隧道」620m工事

 

 

静内町 ひがしのさわ橋 1989年平成1年9月完成

 

中札内村の日高横断道路建設促進看板 

静内町の日高横断道路建設促進道路標示旗

日高の沢登り イワナは夕食に

日高道路 現地調査隊 山中二泊三日

日高道路 現地調査隊 マスコミ隊は首からカメラ二台ぶら下げて沢へドボン