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積丹岳事件の最高裁判所判決 その3

積丹岳事件の最高裁判所判決が出た。事件の内容を説明してみよう。

 2009年1月31日、藤原隆一は冬季積丹岳に登りスノ-ボ-トで下る予定だったが、ホワイトアウトでビバ-ク。2月1日、救助に向かった北海道警察山岳救助隊員5名は要救助者を見つけたが、雪庇から転滑落。その後、救助用ボ-トに乗せ200mの斜面を3人の救助隊員が力任せに50mを引き上げた。疲労困憊の隊員が交代のため、はい松にボ-トをつないぎ、要救助者から全員離れた間に、要救助者を救助用ボ-トに乗せたまま急傾斜斜面を落としてしまった。ボ-トの落ちた跡を辿るか、又は尾根を利用して要救助者の居る場所まで救出に行けば良かったのだが、そうせずにそのまま帰札してしまった。次の日、ヘリコプタ-が要救助者の居る現場に着陸。要救助者は既に凍死していた。

 2009年9月11日、死亡した藤原隆一の両親は札幌地方裁判所に、国家賠償請求訴訟を提起した。被告は北海道。原告弁護士は、市川守弘・市毛智子・加藤丈晴・難波徹基、等8名。

 一審での被告の言い分は、山岳遭難救助活動は本来の警察業務でなく任意のサ-ビス業務なので、一切の責任はない。遭難した本人の自己責任。を終始主張した。

 一審の判決は2012年9月に、遭難者と出会った時点から救助の責任が発生。雪庇から滑落した過失が死亡の原因とした。

前回、少しだがその内容を記してみた。

 今回は私が札幌地方裁判所裁判長に二度にわたって提出した「意見書」の一回目を記してみたい。

 この時、意見書を書くにあたって中立の立場で書こうと考えていた。私は登山者として又救助隊員や救助活動の経験者として、できれば原告や被告のどちらの側にも立つことなく、中立の立場を堅持して書いたつもり。原告のご夫婦から来ていた年賀状も、返信の賀状を控えていたくらいだ。

 

 一度目の意見書は、原告の「被告の過失が原因で死亡」の趣旨の訴えに、被告が裁判長に提出した反論準備書面を基に作成したもの。太字部分被告提出の準備書面。

A4版の21ペ-ジ長文書なので、読むのは大変だ。

 

 

 

証拠物写 甲第16号証 意見書 平成23年4月18日

 

 ここでは北海道内の冬季期間山岳での行方不明や事故により捜索や救助を求めている要救助者の捜索と救助について述べる。次いで、積丹岳死亡事故についての意見を述べる。

 

1.山岳救助隊についての一般的意見

(1)登山と民間の山岳救助隊について

  民間の山岳救助隊は山岳会やクラブ内で組織され、又山岳連盟内に組織されて

いる。隊員は全員が登山愛好者である。

  登山者の行う登山を説明するのは、易しそうで難しい。登山者がより高い新しい

ピ-クを目指して、そして今まで見たことが無い景色を観るために登る。登山を理解していただくには、「そのことを知りたければ、それに触れてみなければ分からない」と説明している。アルピニズムは「より高く」「より困難に」とうたう。8千m峰が登りつくされ、世界の未登峰が少なくなって、現在では登山者一人ひとりの「より高く」「より困難」が追求されている。1924年にイギリス人のマロリ-が「そこに山があるから」と言った名言がある。エベレストを目指す直前に報道記者の質問に「そこにエベレストがあるから」と応えた言葉は、現在も多くの登山愛好者が登る理由と通じるものがあるように思える。

 我国の登山愛好者はそのほとんどが勤労者で、土曜日・日曜日と有給休暇の範囲内で登山を楽しんでいる。個人の趣味として、より高くそしてより困難な山やル-トを目指す登山者は、そのために多くの学習と登山技術の習得に努めている。山岳会やクラブでは教程山行として、沢登りや岩登り・氷雪登山などの登山の知識と技術を学ぶ学習体制を整えている。教程山行は、山岳会やクラブに属する新人達が、知識と技術を深めた先輩達から短期間で会得するようにシステム化されている。「好きこそものの上手なれ」で、体得期間も早い。山岳会やクラブの会員は、登山の知識や技術を学習する機会の少ない未組織登山者と比較して、習熟度や習得期間が異なる。民間の山岳救助隊は、この短期間で困難なル-トや高峰を登る実力を身につけた登山者の中でも、又選別して救助隊員となる。そして、救助訓練を通じて救助技術を身に着けるのである。

 ここでの登山者と呼ぶのは、低山歩きなどのハイカ-とは区別される。

 

(2)山岳救助隊の捜索・救助・救出の体制と準備

  救助隊の体制や救助隊への救助要請方法などは、山岳会組織内救助隊や自治体の組織する隊などで異なる。ここでは民間の山岳救助隊が救助要請を受諾した時点から救助隊出発までの準備について触れる。

 

 ① 救助隊が救助要請される現場は危険なエリア

  行方不明やけがなどで動けない場合など、現場は遭難が発生するほどの天候や地形などが厳しい状況であることの認識を持つ。

 

 ② 遭難パ-ティの状況把握と救助方針

  人数、行方不明なのかビバークしているのか、遭難場所(おおよその位置)、けがの有無、食料と装備の状況、健康状態など。これらの情報をもとに救助方針を検討する。

 

③ 要救助者の保護を目的の一次隊を現場へ迅速に到達させる

  救助隊は、とりあえず一時も早く現場に到達し遭難者の身体の安全を確保する。ゆえに、スピ-ディに行動するために背負う荷物を最少にした先発隊5名を編成する。出発時間は早いほど良い。この場合に注意することは、この救助隊が後続隊と出会わないことや、当日中に引き返せないかもしれないので、最小の荷物には宿泊装備の準備が必要である。共同装備はトランシーバー、テント、シュラフ(遭難者保温用)、食料、飲み物、ガスストーブ、デポ旗、修理具、薬品。隊員装備は冬山装備一式、スキー、ヘルメット、ハーネス、安全環付カラビナ・ディジーチェーン、スリング、ピッケル、アイゼン、ビーコン、プローブ、シャベル、地図・コンパス、行動食、テルモス、ヘッドランプなど。最少であっても必須でもある。

 行方不明の場合は捜索範囲にもよるが、相当数のパ-ティ-による捜索隊を準備する。

  ここで、救助の準備や体制に直接に関係しないが、「ビバ-ク」について説明する。ビバ-クは通常の日帰り登山(スキ-・ボ-ド)の予定で入山するが、予期せぬ出来事で下山できずに山中泊することである。予期しない場合をフォ-スト・ビバ-クと呼ぶ。天候悪化などのためにビバ-クし、翌朝の天候回復を待って下山することになる。ビバ-ク用装備が整っていれば山中の危険を避けることができ、明朝まで安全に山中泊する方法である。

 又一方、登山計画段階からビバ-クを積極的に行う登山もある。テント設営の場所がなく、軽量装備を強いられるヨ-ロッパやヒマラヤの壁登攀などである。ツエルトを被って夜を明かす最長期間で5日間ビバ-クや6日間ビバ-クの登山がある。テントなど一泊装備を完備している場合(昔は山小屋使用)は、緊急宿泊でもビバ-クとはいえない。

 

④ 第二次隊以降(遭難者一名としての対応)

  二次隊10人以上を編成し、荷揚げ・搬送要員とする。先発隊が遭難者を発見できない時には、先発隊に合流し捜索活動を行う。先発隊と同時か準備のために少し遅れて出発してよい。たとえ先発隊と同時に出発しても荷物の重さ、デポ旗を打つなどルート整備をして進むために先発に遅れることになる。二次隊は荷揚げの他に、先発隊だけではストレッチャ-搬送ができないので合流して搬送を行う。先発隊の5人ではストレッチャーの搬送は不可能である。ストレッチャーによる搬送は両サイドに4人、前後に2人、ロ-プで引く4名で最低でも10人が必要になる。下り斜面では後ろからの確保要員がいる。搬送途中の交代要員も必要。スキーを履いたまま引くことはできないので、引いている隊員のスキーを担がなければならない。また、幕営用具の荷揚げについては、救助活動の当日は天候がよくないということを考えると、万が一のアクシデントに対応するために用意する。

二次隊は先発隊と同時に編成する。

 荷揚げ共同装備はトランシーバー、ストレッチャー1台、ロープ40m2本、引き綱用ロープ、デポ旗、テント3張(15人として)、ガスストーブ3台、シュラフ15人分、食器、食料、行動食、修理具、薬品、乾電池。隊員装備はスキー一式、ピッケル、アイゼン、ヘルメット、ハーネス、安全環付カラビナ、ディジーチェーン、スリング、ビーコン、プローブ、シャベル、地図、コンパス、行動食、テルモス、ヘッドランプなど。二次隊が装備の全部を運び上げれない場合は、荷揚げだけの三次隊を派遣する必要が生じる。

 

⑤ 現地本部の設置

  登山口周辺に現地本部を設置し、作業の状況を把握する。必要物資調達や人員の補給等を行うので、救助の知識を持つある程度の隊員数を常駐させる。

⑥ 機動力の要請

  行方不明者や要救助者を発見した段階で、至急病院への搬送が必要と判断されるかもしれない。機動力として事前にヘリコプタ-搬送の依頼をしておく。

⑦ 通信網の確保

  救助隊と登山口周辺の現地対策本部との通信を確保する。携帯電話通信可能かどうか。

 携帯不通話エリアの場合はトランシ-バ-にする。トランシ-バ-も中継地が必要であれば、宿泊装備を持参した中継地要員の派遣が必要となる。

 

(3)捜索・救助中の救助隊の安全と、要救助者の安全について

  要救助者は生命の危険にさらされている状況がある。又、救助隊も行方不明者や事故の発生している場所に向かうので、当然危険にさらされることが予想される。

 

① 安全確保の一般知識

  救助隊の危険を事前に予知し、絶対に二次遭難を避けなければならない。救助隊の二次遭難は要救助者の救助を不可能にするばかりか、救助隊への救助の必要が新たに発生するからである。

 気象判断・危険地形・装備不足、人的不足等、救助隊の危険要素を準備段階から事前に判断して、体制を確保する。又、山中においてそのつど判断して、危険を回避して安全を確保しなければならない。現地の状況を検討して作る体制の準備は、要救助者への接近と移送などの要素と並んで、レスキュ-成功の可否がかかる。

 要救助者の安全確保には、救助隊の責任として①要救助者を見失わない。②一度タッチした要救助者は離さない。③平常心でない要救助者を救助隊に加えない。などの原則が大切である。

 

 ア.GPS・地形図と磁石・デポ旗の使用

   GPS機は行動途中で現在地点を確認する機能がある。天候悪化で目標物が目視できない時には有効である。しかし、そのためには、地形図上に緯度経度などの細かい表示をしなければ何の役にも立たない。唯一山岳中で役に立てる使い方は、事前に登路の要所ようしょを地形図にしるしをつけ、それをGPS内に記録する。登る途中で東西南北などの方向にどの程度ずれて登っているのかを確認する方法である。ずれているm数が表示される機種もある。下山路にも同様の使い方ができる。この場合は、自分の辿った経路を機内に残す機能の活用で更に有効度が増す。電池切れで使用不能にならない様に予備電池が必要である。現在では、10mの等高線の入ったカラー地図が表示されるものもある。そこには軌跡ログが表示され、登路を忠実に登下山することができる。

 地形図と磁石を使用して歩く場合は、出発地の現在地が分かっていなければ使用ができない。視界がきく場合も目標物が目視できない天候の場合も有効に歩くことができる。  

 しかし、普段に歩くスピ-ドから時間と距離を測ることを身に着けていなければならない。例えばA地点からB地点に歩く時に、東北方面に一定のスピ-ドで20分歩いたら約1km先に達するなどである。複数名で歩く場合は先頭者を一定の方向に見える範囲で歩かせ、次いで後続者が先頭者の所まで到達する方法もある。この方法は後続者が先頭の向かう方向を指示でき、ホワイトアウト時や強風時の歩行に有効である。

 天候悪化で目標物を目視できずにデポ旗を使用するのは、GPSや地形図と磁石に頼らず、あくまでも目視で登山や下山をする時に有効である。磁石などと併用することもできる。デポ旗を一定程度の間隔で雪面に刺すのは、天候が晴れていて先方が目視できている場合でもしなければならない。出発時の天候に関わらず、帰路や原点復帰のためのものである。あくまで回収しつつ原点まで戻るためのもので、刺したまま他のル-トを辿ることを想定している場合には適しない。デポ旗間が目視できないほどの悪天時は、地形図と磁石で歩く場合と同様に、先頭者や二番目三番目を目視できる距離まで歩かせて、後続がそれに続く方法で次のデポ旗を探すことになる。歩行できる範囲の風雪では、デポ旗が抜けることはない。やわ雪にはしっかりと刺さなければならない。

 

 イ.低気圧の接近・低気圧圏内・低気圧通過後の西高東低気圧配置、等は救助隊をも危険にさらされるので注意を要する。登山口出発時に降雪でも、高度が高くなると気圧が低下して気温が低下するのと風が強くなり降雪が吹雪に変わる。吹雪でル-トが不明になり自分達が遭難する場合や身体の凍傷などが考えられる。又、吹雪やホワイトアウトで前方が見えないことから、崖などからの転滑落の危険が増す。吹雪や転滑落の危険などは、天気図や地形図から事前に予測可能である。二次遭難を事前に防止する行動が求められ、又行動の停止が求められる。行動を停止してその場に止まれば、行動することからの二次遭難は発生しない。

 

 ウ.雪崩の危険や崖からの転落滑落などの危険と、稜線から南方向側に発達する雪庇の危険もある。雪庇は天候が良い時でも歩く場所の判断が難しいので近づくことを回避しなければならない。晴天時でも雪庇の踏み抜きなどの事故が発生する。天候の悪い時は稜線の歩行を避け、風上側だとしても稜上から雪庇の反対側の下り斜面を歩かなければならない。他のル-トがなく、どうしても稜上を歩かなければならない場合は、転滑落をくい止めるために互いロ-プでビレ-をとる。コンテニアス(同時登攀)とスタカット(隔時登攀)方法がある。コンテニアスで歩く場合は、ロ-プを使わない場合と同様のスピ-ドで歩くことができる。ロ-プワ-クができない者は、悪天時の稜上歩行は行わない。

 

 エ.救助隊は、遭難者が遭難している場所へ向かうのであるから、自分達自身も慎重な行動が要求される。救助活動が困難な場合や日没などで行動が制限されるなど、あらかじめ予想される状況を想定した装備を完備しなければならない。要救助者と救助隊の双方が山中で必要となる装備の全てを用意し、全ての装備を担ぎ上げる人員が必要となる。救助隊がビバ-ク装備でビバ-クするのは非常時のやむを得ない場合であって、事前に想定することではない。その日のうちに全員無事に下山する目標で行動するが、それは頭初の目標であって、遭難している場所に行く認識があれば、おのずと山中宿泊装備と食料の持参が必要であることが判る。救助隊の派遣は、100%安全が保たれることが前提である。

 

② 安全確保の技術と装備

  救助隊の救助活動には、要救助者の安全確保と、レスキュ-デスを回避する知識と技術が必要である。救助隊が二次遭難することは、要救助者を救助できない事態になることは前述した。それどころか、救助隊を救助するための救助隊が必要になる。ここでは救助隊の安全を確保する救助技術と危険回避技術について、又知識不足から良かれと考えて行う救助自体が原因で要救助者を死に至らしめることなどを説明する。

又、安全確保の装備を説明する。

 

 ア.救助の知識と救助技術

  どの程度の知識と技術が必要かは、基準値がない。山岳の救助であるので、登山に関する知識と技術は最低限必要である。救助隊隊員は登山の知識と技術に、加えて捜索や救助に必要な知識と技術を身に着けなければならない。一般の登山者と比較すると、救助訓練を重ねて行っているので知識・体力・技術ともに優れている。優れた体力がなければ冬山の要救助者が遭難している悪天時などに通用しない。

 悪天時の捜索の場合、出発時の悪天は登高するにしたがってより悪化する。救助隊自身が遭難一歩手前の状況に追い込まれる。相当の悪天でも救助活動ができること。又、救助隊がテントを設営して留まる判断も必要である。行動や下山を急いでの二次遭難が考えられるからである。

 救助隊の遭難は、要救助者を更に危険な状態にさらすこととなる。又、要救助者発見後に遭難者を伴った場合の状況判断は、更なる慎重さが求められる。

 

 イ.安全な救助活動に必要な装備

   装備に関しては、救助に向かう山の規模や捜索・搬出の難易によって日数や携行する装備が違う。遭難する様な場所に行くのであるから、当日中に引き返すことができない場合を予定した装備を持参しなければならない。宿泊装備の不足から下山せざるをえなくなり、下山時間が迫ることで、急いだ行動が二次遭難誘発の原因となる。救助隊が要救助者を捲き込んでの二次遭難は最悪である。

 救助隊の安全確保装備には、現場の危険な自然環境や天候悪化時に、全員が避難できるテントが必須である。

 

 ウ.装備の使用方法や使用技術を身に着けること。

   例えば、ロ-プを持参するのであればロ-プワ-クができること。ロ-プでソリを引く以外に、ロ-プを使用して自分たち自身が一定程度の崖や急斜面の登下降ができる技術が必要。目の前に遭難者が居ることが分かっていても数mの登下降ができず、みすみす生存者の救出ができない様なことがあってはならない。ロ-プを使用して急斜面の引き上げ技術や、タンカやスノ-ソリに乗せた要救助者の登下降をスピ-ディ-に行う技術も必要である。

 ピッケルを持参して、自分自身の登下降に使用する以外に、登下降や引き上げのアンカ-にも使用できる。

 冬季間救助の場合は、必ずスノ-ソリを持参すること。要救助者を発見し生存しているにもかかわらず、運搬用具がないために救助できないことがあってはならない。寒さの厳しい冬季間は、運搬の迅速さが要求され、又雪面に適したソリ状の運搬用具の方が良い。

 

 エ.雪崩の危険を事前に回避する知識と技術

   雪や雪崩の知識と雪崩回避技術などは救助隊に限らず、積雪期に入山する者が身に着けなければならないことである。雪や雪崩についての知識と技術の習得には時間がかかる。しかし、現在では登山者・ボ-ダ-・スキ-ヤ-の多くが雪崩講習会を受講して身に着けている。これは、雪崩危険地帯を事前に予知して危険を回避する以外に、安全地帯を知るためにも必要である。急傾斜斜面を目の前にして傾斜の急な角度から「雪崩の危険があって踏み込まない」と判断するのは間違いである。弱層テストをしてなだれないことを確認して、その斜面を積極的に登下降して救助救出できるのである。斜面での弱層テストは、「事前に雪崩の危険を回避する」「危険の無いことを知る」など科学的方法である。山岳での行動判断する理性は、科学的でなければならない。経験豊富なベテランは、科学的知識と技術の裏づけがあってのことである。

 数日前からの天候分析で雪崩を発生させる弱層の形成予測ができることがある。又、入山時からアクティブテストや弱層テストをして、雪崩の総合判断をすれば良い。

 

 オ.雪庇に近づいてはならない

   雪庇は通常、北風や北西風が稜線の南から南東側に雪を張り出して作られる。作られる過程は、ほぼ水平に雪が張り出し、張り出した雪が自重で垂れ下がる。その繰り返しで大きいもので数十mにも張り出す。急斜面の雪崩と違うのは、ほぼ水平に平たい雪面になるために、どこから雪庇なのか、雪の無い時期からの観測でなければ判明が難しい。そして、張り出しと垂れ下がりを繰り返すことで、深部ほど縦に近い積雪層になり空洞部分があり崩れ易い特徴を持つ。薄い層では踏み抜く危険と、厚い層なら乗者と一緒に崩壊転落する。稜線しかル-トがない場合以外は決して稜線に近づいてはならない。遭難者を救出後ならなおさらである。

 雪庇の崩壊は雪が崩れるのだから雪崩の一種類である。

 

 カ.低体温症の知識と救出方法

   低体温症の要救助者の救出には、レスキュ-デスの危険が大きい。特に注意を要する。「救助して搬出中や救急車・ヘリコプタ-内で死亡した」と云うことを聞く。要救助者の手足をマッサ-ジしたり歩かせたりした後、搬送中に死亡する例である。救助のための知識不足から、良かれと考えて行ったことで死亡するのである。

 保温:一定程度以上の低体温症者は、その場で動かすことなく保温に努めなければならない。決して歩かせたり、血の巡りを良くしようと手足をマッサ-ジしてはならない。手足の冷えた血液が心臓に入り心室細動を起こすのである。とりあえずはその場で、それ以上体温の低下を防ぐためにテントや雪洞に収容することが大切である。低体温症の知識を持たない意識のある本人は、「大丈夫」とか「歩ける」などと言い、立ち上がって歩こうとするが、決して歩かせてはならない。救助隊員は低体温症の症例や処置方法を熟知していなければならない。低体温症の知識がなければ、その場で通信による医師からの処置方法の指示を仰ぐのも良い。数分で医師との対話ができるはずである。そのための通信手段の確保のために山中中継地の設置も必要になるかもしれない。保温できるシュラフやツエルトで包むことで外気から守られる。加温法に保温が含まれる。

 加温:手足をマッサ-ジしてはいけないなどの知識と同様に加温の方法の知識も必要である。保温状態を確保してからの処置となる。山中で救助隊のできる加温方法は、脇の下や股の付け根に42度C以下の温水入りのポリタンクなどで暖めることである。

(4)山岳救助隊の捜索と救助に必要な人員数と装備・食料について

  救助隊の捜索や救助エリアは、遭難者が行方不明や事故に遭遇している場所であるので、通常の登山以上の危険が伴うことは前述している。ゆえに捜索や救出に必要な人員や装備などはそれなりの体制でなければならない。

 

 ① 救助隊人員数

   救助を求めている人の位置が確認できる状況と、計画書のみの情報で、だいたいの地域しかわからない場合の人員数はおのずと異なる。後者の行方不明の場合は捜索エリアにもよるが、一人でも多くの捜索隊員数を必要とする。一定人員の多数パ-ティ-が捜索することになる。パ-ティ-間の合流が無い場合を想定し、当日中に引き返せない場合を想定した装備・食料を背負っての捜索・救助体制を執ることが求められる。

  捜索を求めている人の位置が判明している場合は、とりあえず保護に努める人数の先発隊員数は5名。それは深雪のラッセルをしてスピ-ディ-さができる人数となる。

 発見できる場合とできない場合など考えられるが、どちらにしても遭難している所に入山するのであるから、当日中に戻れない場合や、戻って再入山するむだな時間をしなくとも良い様な、山中で捜索や救助を続行するための装備が必要になる。スピ-ディ-な捜索をする先発5名の他に、救出装備と5名の必要装備を背負った二次隊が必要となる。

  遭難者の人数にもよるが、歩行困難や歩行ができないことが想定される場合は、ソリに乗せて搬出する人数が必要である。基準数はないが、ソリ一台に15名は必要。ゆえに最初から15名が入山しなければならない。ソリ以外の形状の搬出機材なら、その5割増から二倍の人員が必要となる。

 

 ② 救助隊隊員数と装備・食料などの一覧表を一例として示す。

この人数と装備は、山の頂上稜線付近に行方不明者一名の捜索救助隊派遣のものである。救助隊はあくまで当日中の救助下山を目指している。

  • 救助隊編成  総勢32名

    ・前進先発隊    9名  捜索搬出用装備を持って現場に直行。

    ・荷揚げ隊    12名  幕営用具、食料の荷揚げ、テント設営。先発 

                  隊と合流。

    ・登山口待機隊   9名  現地本部と通信、記録。必要に応じて対策本部

                 との連絡。

                 不足装備、必要装備、食料等の荷揚げ。

    ・現地本部     2名  現場手前に設置

                   前線との連絡、登山口、対策本部との連絡。

              ※テント泊は15名とした。

      内訳は工作隊9名、現地本部2名、荷揚げ隊から4名。(荷揚げ隊5~8

      名は下山)

  • 救助隊員出動時の個人装備

   冬山装備一式

      スキー・ストック・シール

      ビーコン・プローブ・シャベル

      アイゼン・ピッケル

      ハーネス・ヘルメット・ディジーチェーン・安環付カラビナ(セルフビレ

       イ用)

      ウェア

      シュラフ・マット(現地テント宿泊用、宿泊隊員15名分)

      食器

  • 捜索搬出用装備

     セミスタッティクロープ  10.5mm  100m  2本

                         50m  2本 (下降用アン

                          カー、引上げ用)

     スノーボート       2分割式 (要救助者を乗せ搬出するため)

     テープスリング・ロープスリング 多数 (ルート工作用・隊員用)

     スイベル         1個 (引上げ時のロープ捩れ防止)

     プーリー (1/3引上げ用)

     ストップ (ぺツル社、1/3引上げ時のロープのロック用)

     ID    (ぺツル社、ロープの末端にぶら下がった隊員が下降するときの

           ディスタンスブレーキ用)

     レスキューセンダ― (1/3引上げ時のストッパー、プルージックの役割を

                するもの)

     ロープスリング   6mm 10m  9本

               7mm 10m  1本

         (スノーボートに要救助者を固定・牽引、あるいは緊急用に切断し

          て使用を想定)

     土嚢        20枚

          (現場近くに適当なアンカーが見つからないときに、土嚢の中に

           雪を詰め、アンカーとして使用)

     ルート旗

  • 共同装備

    テント(エスパース)    3張  5人×3  15人宿泊

    テントマット

    コッヘル          3

    ガスヘッド         3

    EPIガス          3

    乾電池   単3    120本   トランシーバー・ヘッドラン用

          単4     60本   ヘッドラン用

    トランシーバー      10台

    行動用ツェツト       2張   前進隊用

  • 食料

  隊員朝食・行動食(40食分)            

     隊員夕食   アルファ米  2人用  15個  (テント食)

            すし太郎   3~4人用 3袋  

     隊員朝食   お茶漬の素       16個  (テント食)

            味噌汁    8人用   2袋

  ※救助活動がさらに次日にずれ込んだ時には、登山口に待機した隊員が食料の荷揚

   げをする。

      

 この救助隊は実際に出動したものである。2009年(平成21年)1月6日、札幌近郊の無意根山1464mの山頂手前の稜線付近に遭難者一名の捜索・救出に出動した北海道道央地区勤労者山岳連盟救助隊の人員数と装備である。ほとんどの隊員は職場を有給休暇取得して出動した。

 被告乙号証写・第22号証・北海道新聞記事 1月5日に道警救助隊が出動し、午前7時10分に雪洞の遭難者から家族に携帯電話通信され。8時11分に現場付近に到着した道警救助隊は、9時5分に雪崩ビ-コンが遭難者の携帯するビ-コンの発信電波をヒット(受信)する。救助隊の受信ビ-コンのデジタル表示は25mから35mの距離表示と遭難者の居る場所を示す方向表示がなされていたはず。遭難者の方向には雪庇のある4m50cmの急斜面があり、ロ-プを持参していた6名の救助隊は、ここを下ることができずに捜索を中止している。ロ-プの長さは40m~50mと思われる。道警救助隊は10時30分頃に下山も決定している。

山岳連盟救助隊は、道警救助隊の下山後に救助要請された。

 

2.積丹岳死亡事故への意見

(1)北海道警察山岳遭難救助隊(以後道警救助隊と呼ぶ)の隊員数の不備

   遭難者の位置がGPS方位で知らせてきているので、先発隊5名で捜索するのは正解である。しかし、この救助隊員5名は二次隊の派遣のない本隊であった。必要装備の荷揚げと要救助者の救助・救出には足りず、先発隊と後発隊合わせて15名の隊員が必要であった。遭難者の捜索と救助の明確な方針が無かったことがうかがわれる。

  以後、救助隊員数不足の場所や理由を述べる。

 

 ① 遭難者の同行者からの救助要請から、道警救助隊員5名の出動発令

  被告第1準備書面・15ペ-ジ・ウ、 5名に発令され、この者らにより隆一を救出するための山岳遭難救助隊が編成された。

 救助隊員5名の発令者は、当然に遭難者の状況を分析し、必要装備と人員数を決定したものと考える。前述した通り民間救助隊は32名のうち21名(宿泊15名)を現場の必要要員としている。先発隊を5名としても、一名の遭難者の捜索と救出には最低でも15名が必要と考える

 5名の救助隊員は、車にテントなどの必要装備を積んで現地に向かっている。これらの装備と食料の重量を考えれば、当然に人員不足に気がつくはずである。この点でも指摘できる。

   出動発令者の判断は間違っていた

 

 ② 被告第1準備書面・16ペ-ジ・エ・(ア)・①  地上からの捜索活動は、救

   助隊5名、積丹町の消防員4名、積丹町職員の運転手1名、民間人スノ-モ-ビル運転手2名で実施する。

 捜索用の服装と装備を備えているのは救助隊員5名しかいない。「積丹岳遭難対策本部」が決定した捜索・救助の隊員数は民間救助隊の必要人員数と比較して、捜索・救出に必要な人員数ではない。5名の発令者が状況の検討をしたかどうか不明だが、ここでは対策本部の検討した判断が間違っていたと言える

 

 ③ 被告第1準備書面・17ペ-ジ・(イ)・④ 搬送用の装備機材を充実させる一

   方で、テントやコッヘル等の重量が嵩む機材は持参しない。

  搬送用の機材を持ち、重量の嵩む機材を置いていく理由に、「機動性に富む迅速な救助活動」を挙げている。救助隊員の背負う荷物の量で機動性を論じるのは間違いである。山岳の救助活動では、通常登山口までの車両の使用や、雪上車 ・スノ-モ-ビル・ヘリコプタ-などが機動性に富む活動を指すのである。

  積丹岳遭難対策本部が、機材の重量からも隊員数が足りないことを判断しなかった間違いを指摘できる。テントなどは救助隊の必要装備である。運べない人員数を決めた判断が間違っていたために起きた機材不足である。テントなどの必要装備を持たなかった救助隊は、このことが原因で次からつぎと判断ミスを犯すこととなる。

 

 ④ 被告第1準備書面・22ペ-ジ・(5)・ア・(サ) 午前10時22分頃か

   ら、・・・・しかしながら、同人を発見するに至らず

  捜索隊(救助隊)が頭初GPS地点を地形図上で確認し、その場所に達した時に、その場所には遭難者が居なかった。この時点で広域の捜索が必要となったはずである。一点の捜索を目的の救助隊編成を、広範囲捜索隊に切り替えなければならない。又、現地対策本部は、居るはずの場所に遭難者が居ないことが分かった時点で、先発隊の要請の可否にかかわらずに広域捜索二次隊編成をすべきであった。もちろん、二次隊も宿泊装備を完備したものでなければならない。結果として二次隊が実際の捜索や救助に間に合わないかどうかの問題ではない。ここでも判断を誤っている。いや、しなかったと言える。

 

 ⑤ 被告第1準備書面・23ペ-ジ・(5)・ア・(セ)午前11時59分頃、

   ・・・・俯せの態勢にあった隆一を発見した。・・・・微かに「あっ、うっ」等の嗚咽を漏らす程度で、・・・自分の身体を起こすことができなかった。

  遭難者発見時点では、遭難者の低体温症症状が判明した。要救助者を歩かせてはならないのであって、5名で救出困難な事態が生じた。保温のためのテントなどの装備荷揚げや、ストレッチャ-搬出のための救助隊員増員の必要性である。救助隊は二次隊の要請をすべきであった。現地対策本部でも同様の二次隊編成をすべきであった北海道警察救助隊の隊員数は100名である。前述した民間救助隊編成例で示した通り、必要人員数は32名である。100名のうち32名を捜索・救助にあたらせることができたのだから、できない理由とはならない。

  少し話しはそれるが、救助隊は「吹雪の中を決死の覚悟で現場に向かった」とか「ひたすら人命を救うために自らの命を犠牲にすることを覚悟してまで救助に向かった」としている。

  北海道警察職員が北海道民の命と財産を守るために日夜の活動をしている。しかし、訓練でやったこと以上の救助活動はできない。決死の覚悟とか、自らの命を犠牲にする覚悟とか、そんなことでは救助は成功するはずがない。必ず失敗する。なぜならそのような思いで現場に向かうということは、訓練で身に着けるはずの知識も技術もないことを自ら語っているだけである。決死の覚悟をする位の吹雪なら、形状が丸めると筒状で縦長のストレッチャ-を背負っていたのでは歩けないはずである。

 山岳救助隊は登山の知識に加えて、捜索や救出技術を合わせて身に着けていなければならない。このことは、救助隊員のみに適応されることなく、遭難対策本部員や現地対策本部員にも当てはまる。遭難対策本部員や現地対策本部員が登山や救助の素人であってはならない。北海道警察救助隊の体制や救助の準備について指摘すると、積丹岳の救助活動は、民間の救助隊体制と比較して隊員数に限っては32分の5だった。

 

 ⑥ 被告第1準備書面・26ペ-ジ・(5)・イ・(ウ) 突然足を踏み外した様になり、滑り台を滑る様な姿勢で滑走した。   

 積丹岳頂稜稜線の南側に張り出した雪庇から転落した。隊員は負傷している。要救助者も転滑落距離からは、隊員以上の負傷が想定できる。二次遭難の発生であった。それも、遭難者を捲き込んだのである。最悪の二次遭難を起こしたのである。救助隊が通常の冬山での安全な歩行方法によらない、危険を承知で最短距離の歩行をしたための結果であった。安全注意義務に違反した判断であった。救助隊は最短距離での救出の理由に「要救助者と救助隊にとっての相当の負担」を挙げている。雪庇の存在と転落の危険性を認識していたのだから、救助隊の安全な救出活動と言う前提に反した決断・行為であった。雪庇から転落し二次遭難状態で、この時点で救助活動と同時に要救助者を稜上に引き上げる義務が発生したと考える。

 斜面の引き上げを5名では絶対に引き上げることができないと断言できる。稜線下部の雪庇部分のほぼ垂直な斜面60度から70度の10mの引き上げを5名で成し遂げれない。北海道警察救助隊の過去の活動からは、できないと判断できる。この斜面に雪洞を掘って止まるか、斜面の引き下ろしなどの選択も考えられた。どちらにしても後続の救助隊二次隊到着を待つこととなる。しかし、実際には異なる行動をしたのである

 滑落の知らせを受けた北海道警察本部は、午後1時15分に二次隊の出動をしている。これは正当な判断をしたと言える。しかし、現場や以後の状況を知る二次隊は、3時10分現地対策本部に到着しているが、入山していない。暗くなる前に雪上車やスノ-モ-ビルを利用して現場へ行けた。スノ-モ-ビルなら現場まで15分~30分で到着することができる。二次隊の人数は明らかでないが、負傷していない隊員と合わせても15名にはならないであろう

 救助隊の主張する「要救助者と救助隊にとっての相当の負担」については、2.(3).デポ旗設置と使用について、で触れるが、デポ旗設置ル-トを忠実に辿って下山しなくとも、デポ旗ル-トの途中への最短距離での下山もあったのである。稜線から辿る距離と同程度である。なお、「雪上車が待機する9合目まで、通常の登山ル-トを下山」としているが、積雪期の山岳で「通常の登山ル-ト」はない。

 

 ⑦ 被告第1準備書面・30ペ-ジ・(5)・イ・(ケ) 引き上げ作業を開始してから約1時間が経過した午後1時50分に至っても、・・・50mしか前進しておらず、

  スケッドストレッチャ-を引き上げる途中で、時間がかかるためと手の凍傷の隊員の交代のためにスケッドストレッチャ-をはい松につないだ時点で、雪上車までに到達するのが日没時間を過ぎることが予想された。この救助隊が雪庇崩壊した10メ-トルの急斜面を、ロ-プ伝いに自分達自身は上がれるだろうが、要救助者を引き上げられない。とても明るいうちの救出は見込めない。引き上げ自体が不可能と言える。救助隊はこの時点で、あらゆる手段を講じても二次隊派遣の要請をすべきであった。なんの判断もしていない。 

                    

 ⑧ 被告第1準備書面・32ペ-ジ・(5)・イ・(シ) 落下したストレッチャ-を回収するためにさらに捜索を継続すれば、二次遭難に陥ることが確実視された。

  スケッドストレッチャ-が急斜面を滑落した時点をどの様に判断すべきか。三次遭難が発生したのである。それも、救出すべき遭難者を救助隊のミスで発生させたのである。ストレッチャ-に乗せた要救助者を、斜面下部へ滑らしてはならないのである。下部に崖や木があれば即死もあり得る。遭難者の救出を続行しなければ、要救助者の死を意味する事態の発生である。救助隊がその場所から下るか、他の場所(雪上車降車場所付近のピリカ台から回り込んで下部へ到達できる)からストレッチャ-に到達するかである。ここでも、救助隊の捜索続行か下山かの選択前に、二次隊の要請を判断すべきであった。到着する二次隊の入山要請をすべきであった。救助隊は二次遭難の理由に被告第1準備書面の32ペ-ジ①において直前にも捜索隊員らが滑落事故に遭遇していた、と述べている。同じ場所を二度目の滑落事故に遭遇すると「遭難」と表現するのに、一度目は「遭難」ではなかったのであろうか。二次遭難とは、遭難者の捜索・救助活動中に、救助隊が遭難することを言う。救助隊の遭難が二度目の時は三次遭難である。

ここでの救助隊の要救助者への責務については、あらためて後述する。

 

(2)救助隊の装備の不備

   救助隊の通常の捜索や救助活動は日帰りを目指したとしても、宿泊装備を完備するのが通常である。最近の遭難は携帯電話通信などで、遭難場所がほぼ確定していることが多い。しかし、現実には救助隊がその場所に到達して遭難者を発見することは困難である。日没までに発見できない行方不明者の捜索は、捜索隊が到達地点で宿泊して翌日に捜索再開が効率的ある。遭難者の救出が目的なのだから、生存しているうちに救出しなければならないからである。救助隊が装備不足で登山口を日帰りで行ったり来たりすることは避けたい。

 

  ① 積丹岳救助では捜索の前日に、搬送装備以外の重い装備を持たないことを決定している。せっかく車で持参していたのに、救助の常識を逸脱した決定であった。隊員が5名なので持てないのは理由にはならない。なぜなら、宿泊装備は救助隊の必須の装備だからである。「5名の隊員なので持てない」との理由については、前述の救助隊隊員数の不備で述べたが、最初から救助隊員数が不足していたのである。装備の荷揚げだけを考えても救助準備日だった前日から雪上車に乗車しての登高を予定していたのだから、途中までしか登れない雪上車だが、搭載できたはずである。要救助者に接近する予定のスノ-モ-ビルにも搭載できた。

 

  ② 救助活動を開始して、遭難者が居るはずの場所に居なかった時点で、救助隊は新たな広範囲の捜索を開始せざるを得なくなつた。この時点でも、遭難者を連れて下山できないことの想定をして、宿泊装備の荷揚げの要請をすべきであった。機動力の雪上車やスノ-モ-ビルのピストンで途中まででもできるはず。この時点で二次隊の要請をすることと、雪上車の組み合わせで可能であった。

 

  ③ 遭難者発見時に低体温症の症状が判明した。保温の最善策をとり、この時点でも本日中に下山できないことの予想がつく。テントの不足で遭難者の保温ができなかったのである。現地本部に宿泊装備の荷揚げの要請をすべきであった。実際には、歩かせてはいけないのに歩かせている。稜線で雪が硬くて雪洞が掘れないのであれば、幸いにも硬雪なのでシャベルやスノ-ソ-で雪のブロックを作り、積み上げると強風を防ぐことが可能である。シュラフに入れツエルトに収納して保温できる。最初から同時出発する荷上隊の二次隊体制なら、テントを持参して保温ができたのである。強風下でも歩行可能な風ならテント設営はできる。

 

  ④ 雪庇から転落して要救助者を確保した時点で、要救助者と一緒に下山は困難であることが想定できる。この時点でも、宿泊装備の荷揚げを現地本保に要請しなければならない。又、よりいっそう遭難者の容態悪化がみられたのだから、保温に努めなければならない。

   因みに、同斜面を引き上げようとした場合の装備と人員数は、100mのスタテックロープが2本、滑車2個、スリング、アンカー3ヵ所、人員は最低でも15人は必要。雪面にアンカー3ヵ所を作製、それに滑車をセットして100mロープを通し、プルージックかユマールでブレーキをセットする。人員配置はブレーキに1人、ストレッチャーに3人、斜面の下方に向かって引く、引き手が5~6人、他は次のためにシステムのセットをする。

  ここでは、装備不備以外にも触れるが、幸いにも硬雪でないやわらかい雪に変わったのだから、シャベルで雪洞を掘るチャンスであった。雪崩について「急傾斜の斜面なので雪崩が発生して二次遭難の可能性を案じた」と述べているが、急斜面を見ただけで「なだれる、なだれない」の判断はできない。急斜面ほど短時間で、安全や危険度を判定する弱層テストができる。なだれるか安全な斜面かの判断は可能なのである。雪上車から降りて歩いている最中でもアクティブテストなど、なだれるかどうかのテストをしなければならない。二次遭難しているのにその「遭難」判断もできず、感じや感覚で「なだれそうだ」と判断するのは適当でない。あくまで科学的でなければならない。雪洞は、遭難者の保温をするだけでなく、救助隊もビバ-クせずに一夜を安全に過ごすことができるのである。

 

  ⑤ ストレッチャ-が滑り落ちた時点で、ストレッチャ-捜索のために下山できないことを想定して、宿泊装備の荷揚げの要請をすべきであった。負傷した隊員は下山するとしても、残りの隊員が行動できたのである。

 ここでも装備に関しないことだが触れることとする。前述した即死も考えられるが、無事だとしても、数時間から一晩経過してその間に保温しなければ死に至るのは救助隊員でも他の誰でも思い、考えられることである。ストレッチャ-は飛んでいったのではなく滑落したのだから、滑り跡を辿れば容易にたどり着ける。跡が見えない場所があったとしても下方に居るのだから、数分から10分以内でたどり着ける距離である。下方のストレッチャ-のある場所も雪洞堀りには適した雪であるはず。救助隊の安全な一夜を保障してくれる。

 

(3)デポ旗設置と使用について

   被告第2準備書面・26ペ-ジ・(ウ)・C 想像した以上の突風の影響を受け雪庇の存在を認識できない状況下で、これを踏み抜き滑落した。・・・猛吹雪の自然現象の不可抗力による

 デポ旗については前述している。晴天でも悪天でも、帰路時の悪天のために必要な登山方法である。稜線は雪庇の張り出しがあって危険なので、地形上の理由で稜線を辿っての下山、救出は避けなければならない。増して悪天で強風下なのだからなおさらである。幸いにもデポ旗を設置しているので、辿れば帰還できるのである。忠実にデポ旗を辿ると遠回りとの主張だが、近道を選択する方法もあった。要救助者発見場所から最短でデポ旗の途中に到達できるのである。デポ旗の常識、設置意味を理解せず、往路だけ設置したのであろうか。雪庇の危険を承知していたのになぜ判断しなかったのであろうか。判断を間違えたのである。「デポ旗設置は相当の距離に及ぶ」のであるから、相当の距離を安全に引き返せたのである。せっかく評価できる歩き方(捜索)をしていたのに残念である。

  デポ旗設置の必要性以外にも、絶対に稜線伝いの下山をしなければならないのであれば、ロ-プ利用でアクシデントを予防しなければならない。選択肢があり、歩行中も後方指示者が前方の歩行者を綿密に注視しなければならなかったのに、「不可抗力」との理由は当たらない。

 

  発見場所からデポ旗設置ル-トへの近道は下記図内にで示す

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急がば回れ」と言う格言がある。

  被告第3準備書面・15ペ-ジ・(イ) デポ旗に従い・・・下山するという、長距離であり非効率的なル-トを選択することとなる。・・・・稜線沿いを下山する最短ル-トこそ最善であり、

  救助隊は稜線を下山する理由を、以上の様に説明している。道警救助隊の説明からは、格言は山岳の救助隊には当てはまらないらしい。救助隊の取った行動が間違っていたことと、今後の救助隊活動のために、下記に格言の説明を述べておく。

  「広辞苑=危険な近道よりも、安全な本道をまわった方が結局早く目的地につく」

 

(4) 発見時の低体温症の処置

    原告訴状・7ペ-ジ・第4・2 救助隊は、歩いた方が体温が下がらないと考え、

・・・歩き始めた。

  被告第2準備書面・14ペ-ジ・第2・2・イ 隆一が発見された直後に、・・・・隆一には救命可能性が認められた。

被告第2準備書面・15ペ-ジ・第2・2・ウ・(イ) 隆一の低体温症が、この18時間半の間に徐々に進行したことは、確実である。

乙号証写 第4号証の2・ 松本孝志聴取・1ペ-ジ~2ペ-ジ  自身の体験則から 遭難者は凍傷や低体温症にあり、現場で幾ら応急処置を施しても容態は改善されず、遭難者を助ける為には一刻も早く専門的な医療行為を受けさせる必要がある状態と判断した。

被告第5準備書面・6ペ-ジ・第2・2・(1)・イ・(イ) 両脇から抱えるようにして隆一を持ち上げて、歩行による移動を開始したのであり、隆一もこれに応じて自ら歩行していた 

乙号証写 第26-1号証 平成21年8月29日、山岳安全セミナ-主催の「夏山の低体温症・凍死事故を防ぐ学習会」に松本孝志警部補が参加 

 低体温症が判明した場合の処置は、まず保温が必要。手足をさすったり歩くことで心室細動を起こす危険がある。低体温症の処置原則「すべきこと」と「してはいけないこと」である。

  その場で寝袋に入れ、要救助者が使ったツエルトや救助隊の持ってきたツエルトに包むなど、保温に努めるべきであった。雪壁を作成して風雪を防ぐ、スケッドストレッチャ-に収容して搬出する。などの選択すべき方法があったのに、最悪の「歩かせる」方法は低体温症処置上は間違いである。要救助者が「歩ける」からといっても歩かせてはならない。ストレッチャ-は保温効果も期待できる。又、「スケッドストレッチャ-を広げるのは飛ばされたり、要救助者の収容作業が困難か不可能」としているが、通常は歩ける程度の風ならテント設営は可能なのであるから、ストレッチャ-も広げて収容できるのである。広げて飛ばされたわけではない。テントを持参しなかったことが救助隊の安全を確保できずに、急いだことがうかがえる。困難ではあっても「歩かせない、保温する」に努力すべきであった。判断や行動は間違っていた。 

 原告が「救助隊が、おそらく対応する為の知識がなかったことから良かれとしての行動」と指摘している。果たしてそうであっただろうか。事故の約7ケ月後に、この時の救助隊員が低体温症セミナ-を受講していて、その時点の知識と技術では「良かれ、悪かれ」などの判断さえできなかったことがうかがえる。

 

(5)雪庇の危険を冒した稜線伝いの下山ル-トの選択

  被告第2準備書面・26ペ-ジ・(5)・イ・(イ) この下山ル-トの南側は急斜面で雪庇も形成されており、これを踏み抜き滑落する危険性が案じられたために、松本小隊長は隊員に対し、風にながされないように登山道から気持ち北東方向を目指して下山することを指示した。

 救助隊は要救助者の発見と同時に低体温症を認知した。低体温症の処置を誤ったばかりか、そして「一刻も早く医師に引き継ぐことが最善の策」のために、他の安全なル-トがあるにもかかわらずに、雪庇の危険を冒すル-トを下山する判断をした。判断は間違っていた。通常の登山活動では、常に危険と向き合って行動する。安全確保にはパ-ティ-の安全と一人ひとりのメンバ-の安全を考えて行動する。危険性が案じられたため、ではだめで、危険として対処しなければならない。

 やむを得ず危険な雪庇が張り出す稜線伝いのル-トを進むのであれば、メンバ-同士が互いにロ-プを結び合って歩行する方法もあった。この方法はコンテニアス(同時登攀)とスタカット(隔時登攀)の二種類ある。急斜面や雪庇の危険のある場所での歩き方である。転滑落者を残ったメンバ-が落下を止めたり滑落スピ-ドをゆるめる方法である。スタカット方法では転滑落距離は数十センチから数mで止められる。最後尾の者は止める方法や引き上げ方法を熟知していなければならない。雪庇からの転滑落の場合は雪の角にロ-プが食い込むことで、ロ-プの流れる速度を緩める効果があり、確保者を引きずり込む力を減少させる。積丹岳救助隊は、危険のある稜線を歩く時にしなければならない方法を取らなかった。コンテニアスとスタカット方法では、互いに数mの距離に離れて歩くので、先頭だけの滑落で済む。ロ-プを装備として完備していたのだから残念である。この2方法の効果は、要救助者が200mも滑落せずに済むことである。その後の引き上げは容易だったはずである。

 前述の1.(3).①.ア.で触れたが、磁石を使用した歩き方では、後尾の松本小隊長が先頭を先導する荘司分隊長の歩く方位を確認しながら修正の指示をしていたはず。北東方向へ要救助者と隊員二人の3名を間に挟んで「着かず離れず」に歩いていて、南方向から南南東方向へ約90度も違う方向へ進んでいる。身体を北東方向へ向けて南南東方向へ進むには「蟹の横歩きの歩き方」以外では到達できない。5分から10分の間、約50mをこの様に歩き続けたのである。松本小隊長が磁石とGPSを見ていなかったか、「蟹の横歩き」から正しい方向の修正指示をしなかったかである。知識と技術が無かったか、又は指示の実行をしなかったかのどちらかであろう

 

(6)ハイマツにテ-プスリングを結束した「ひと回りふた結び」について

  原告訴状・証拠物写甲7号証・樹木への結束時の状況・二つの端をそれぞれ「ひと回りふた結び」でハイマツに結束 

 被告第1準備書面 31ペ-ジ・イ・(ケ) ・・・ウエビングを通し各々の端を太さ約5センチメ-トルの幹と太さ約3センチメ-トルの枝に「一回りふた結び」という負荷が加われば締まりが増す結び方で結束した。

 二つの端をそれぞれ「ひと回りふた結び」でハイマツに結束とある。図から判断すると一本のテープスリングの末端をそれぞれハイマツの枝と幹に固定していたことになる。この方法では片方の末端を結んだ枝なり幹が折れた場合、もう片方を残してストレッチャーから抜けてしまう。テープスリングだけが残っていた訳だが、このような結束ならば残っていた理由が理解できる。

 この結束方法は間違いである。正しくはハイマツを掘り出し、3カ所からアンカー(支点)を作りカラビナを介して固定すること。シャベルがあるのだから掘り出すのは簡単なことである。なぜカラビナを介すかというと、スリングとスリングどうしではテンションがかかった時に熱でスリングが切れるからである。この方法ならアンカ-のハイマツの枝が折れて、その枝に結んだスリングが外れたとしても、ストレッチャ-に結びつけた他のアンカ-のスリングが外れることはない。因みに「ひと回りふた結び」は北海道警察が使う結び方のようで、登山や民間の山岳救助隊では使わない。スリングをアンカーとなるものにひと回りさせ、長いほうにクローブヒッチを作る結び方のように思う。テンションをかけるとアンカーに回した輪が締まるので、ダブルフィッシャーマンのようなものでしょう。スリングやウェビングを使用したアンカ-作りは、安全でなければならない。「一回りふた結び」の結び方は危険なロ-プ結び方法である。

 

 (7)斜面の雪がなだれるかどうかの判断

   被告第1準備書面・29ペ-ジ~30ペ-ジ・(5)・イ・(ク) 滑落時の振動により亀裂を生じた可能性が危惧されたのに加えて、付近は雪崩が発生しやすい斜度であり、積雪状態も膝までの柔らかい積雪のうえにその下方は固雪であって、過去にも現場付近で雪崩による死亡事故が発生しており、雪崩発生の危険性が相当程度あると考えた

 救助隊は雪庇から滑落後、雪崩発生の危険性が相当程度あると考えたと述べている。

 雪面がなだれる要因は、一定程度の傾斜があること。そして積雪層内に弱層があり、弱層の上部に上載積雪があることである。又一方、弱層がなくともなだれる場合がある。降雪中の雪崩として、傾斜や一定時間中の降雪量次第でなだれる。雪は自重で沈みながら焼結作用で上下前後左右の雪つぶが互いにくっつき合って、徐々に崩れないしまり雪に変化する。雪崩の発生しやすい斜度との指摘は正しい。

 雪面を見て、なだれそうだとかなだれない、との判断はできない。弱層を見つける方法は「シャベルコンプレッションテスト」や「円柱テスト」など簡易に短時間で行う方法がある。テストする斜面が急角度なら、5分以内でその結果を判定できる。雪崩は人が雪面に入り込む重量や刺激でなだれるが、自然発生の雪崩もある。自然に発生した雪崩は目撃者がいなければ知ることができない。弱層テストやアクティブテストなど、登山者やスキ-ヤ-・ボ-ダ-などが雪崩を事前に回避するために行っている。又、急斜面でスキ-やボ-ドを楽しく滑るために、安全の確認のために行う。

 救助隊隊員の述べたことのほとんどが科学的な雪崩予知の方法ではない。雪面の亀裂を発見した訳ではない。過去のスノ-モ-ビル死亡事故雪崩については、事故後の調査で弱層の存在と弱層を形成している雪質も判明している。この時の積雪内部の積雪層に同じ雪質の雪があった訳ではない。その場で実際にテストをしていなければ見つけることはできないのである。この時の救助隊員は、雪や雪崩予知の知識と雪崩の危険を事前に回避する技術を身に着けていないことがうかがわれる。雪崩予知の技術は、危険を回避するために必要であるが、救助隊の安全を確認して救助を容易にするためにも有効だったのである。

 雪崩事故防止活動の「雪崩講習会」について述べる。北海道では民間の数団体が雪や雪崩の研究を行い、一般市民が雪崩に遭わないことを目的に講習会を開催している。講師陣は自費で行っている。受講者は登山愛好者やスキ-ヤ-・ボ-ダ-だけでなく、消防署員や消防署山岳救助隊員・山岳ガイド・自衛隊員など冬季間山岳で仕事として活動している幅広い職種の方々である。最近では積雪期に山中の工事現場で働く現場監督や作業員も、雪崩事故防止の知識を必要としている。本来この様な活動は、北海道や北海道警察が主催して開催すべきものと考える。なぜなら、この事故防止活動は北海道民の命を守る活動だからである。たとえ北海道庁北海道警察内に講師が居なかったとしてでもである。北海道には北海道警察山岳遭難救助隊規定が昭和48年に制定されていて、今なお救助隊員の救助の知識と技術が、北海道民を救助活動で保護・救助するにに至っていない現状をかんがみて、道民の一人として希望するものである。

 

(8)滑落したストレッチャ-と要救助者を回収しなかったことと、これ以上の捜索活動は不可能と判断した理由。

  被告第1準備書面・32ペ-ジ・(5)・イ・(シ)・ 落下したストレッチャ-を回収するためにさらに捜索を継続すれば、二次遭難に陥ることが確実視された。

救助隊は標記の理由を下記の様に述べている。

 被告第1準備書面・32ペ-ジ・(5)・イ・(シ)・① 同所付近では、過去に雪崩事故が発生していた。また、直前にも捜索隊員が滑落事故に遭遇していた。 ② 急傾斜で圧雪の上に柔らかい雪が膝上まで積もっていた。 ③ 隊員らが滑落した際の振動や衝撃により、雪面が緩んでおり、雪崩がより発生し易い状況にあった。 ④ 捜索中に雪庇を踏み抜く危険があった。 ⑤ 午後2時を経過していた時点で捜索に向かえば、順調に進んでも、帰路には周囲が暗くなり稜線まで戻れない可能性が大きかった。(日没は午後4時40分頃)。

⑥ 山岳遭難救助隊の各々が、早朝から継続して活動しており、体力は極限の状態に達していた。 ⑦ 同所は谷で、地形が不案内であったほか、スキ-も携行していなかった。 ⑧ 遭難者の位置が全く不明であった。 ⑨ 長時間を想定した捜索でなかった。

 それぞれ一つひとつの理由は、その時点での理由になり得るように思える。しかし、ここに到った経過に救助隊の判断ミスや、実際の二次遭難や要救助者の三次遭難や事故が積み重ねられている状況がある。その判断ミスから生じた事態を説明しているだけである。ここに至る救助隊の行動を知らない人なら、なるほどと思うであろう。

①②③の理由につての意見を述べる。弱層の有無を判断する「弱層テスト」もせずに雪崩の予見をしている。①の「遭遇」については、救助隊が事前に雪庇の存在と滑落するかもしれないことを予知していたことから、該当しない予知せぬことに遭う、と言う意味を国語の間違いなら訂正すべきである。④については、地形図や実際の地形から、救助隊員の居るその下部方面には稜状の地形はなく、自然条件としての雪庇は形成されない。⑤は、雪庇から滑落した時点で装備と人員不足から、日没時刻までには要救助者の稜線までの引き上げは不可能であった。

 ⑥を言及する。要救助者を200mの距離を3名で引上る作業であるが、膝上までの深雪を、ストレッチャ-で引き上げるのは不可能である。ストレッチャ-は雪面を滑り易い形状と材質であること。斜面を引き上げる過程は、ストレッチャ-の下部方向がストレッチャ-の自重で沈んで凹状になり、落下し易くなっていること。ストレッチャ-の上部は深雪で進みづらく、ストレッチャ-でラッセルを強いられる。斜度30度~40度の斜面では、落下を食い止めるだけに多くの力を使わなければならない。ロ-プを握り締め続けている手は、血液が通わなくなり凍傷になる。

 1時間で50m進んでいる。1分間に83cmである。引き上げ装備の不備と、ロ-プを使用して引き上げる方法を知らない救助隊なのだからやむを得ない。

 ⑦⑧⑨についても触れる。スキ-などは救助隊の必須の装備で、森林限界を超える山岳地では途中から担ぐかデポするかを予定していなければならない。長時間捜索装備の不携帯は救助隊の体制や準備などの不備が原因であった。テントなどの長期間捜索装備は車に積載して現地本部まで運んできているのである。被告第2準備書面・40ペ-ジ・(エ)・a・⑥ ・・・沢筋とも考えられる急傾斜の谷であり、 ストレッチャ-の在る下方は、傾斜斜面の地形を形成していて凹地形をさす沢筋や谷地形ではないことは現場で分かるし、地形図からも判断できる。滑り落ちた要救助者の位置は、見えないだけで方向は明確で、近づけばストレッチャ-が目視でき、また目視できないのであれば約50m先が捜索可能な雪崩ビ-コン捜索も可能である。数百mの視界があったはずである。救助隊員は過去(乙号証写・第10号の1 平成19年3月18日、スノ-モ-ビル雪崩事故)の雪崩事故を知っている。又この雪崩事故調査にも参加していて、ピリカ台から稜線南側の斜面下部へのル-トを熟知していた。要救助者の居る場所へのル-トを知っていたのである。そのル-トへ向かう途中には、スキ-がデポしてあり、スキ-を回収できたのである。

 凍傷や負傷の隊員以外の隊員は捜索続行が可能。生存のまま保護する意味では救助隊は救助を放棄したのである。

 

3.道警救助隊の説明について、その他の意見

 (1)極限の状況下

    被告第5準備書面 1ペ-ジ・1・(2) 本件救助活動は、極限の状況下において、上記のような訓練の成果を発揮して実施された。

 救助隊が保護した時点では、自身で歩けるほどの要救助者が、死亡するに至った捜索・救出活動であった。救助隊自身が「訓練の成果を発揮した」と言っているのだから、その結果であったことを認めよう。5名の救助隊員は、過去3年間で23回から12回の救助訓練に参加している。夏と冬の回数は不明だが、今からどんな内容の訓練だったかを問うのはおかしいだろうか。北海道の民間の山岳救助隊では、「訓練以上の救助活動はできない」ことで救助訓練を行っている。欧米の国や地方自治体の救助隊や民間救助隊も同様だと聞く。

 「極限の状況下」についての意見を述べる。北海道内であれば、札幌市内の三越デパ-ト前でも10年か20年に一度くらいの頻度で極限に近い吹雪がある。冬季間の普段から考えると、北海道内の山岳では、気象条件や高度などと風雪などの条件が極限に近くなる場所がある。大雪山の稜上や日高山脈の標高の高い山の稜上などである。又、ヒマラヤの登山シ-ズンであるプレモンス-ン期やポストモンス-ン期の7千m峰や8千m峰の登攀も高峰の環境などから極限の状況が考えられる。この大雪山の縦走やヒマラヤ登山時には、極限に近い環境の装備として羽毛服が必要である。札幌近郊の山や積丹山塊などは、普段には極限の状況にはならず、この日の天気図からは、積丹岳標高1200mで気温がマイナス10.9度~マイナス12.1度くらいと推測できる。極限とするのは無理があるように思われる。

 

 (2)要救助者の服装などについて

    被告第1準備書面25ペ-ジ・② 冬山登山用ではない着衣や装備のまま・・・。第2準備書面16ペ-ジ・(エ)低体温症を予防できる冬山登山対応の服装ではなく、スノ-ボ-ド仕様の服装のまま、・・・。と説明している。

 冬山登山対応の服装、とはどの様なものであろうか。登山者の服装は、それがどの様なものであっても、登山者が着ているのだから全てが冬山登山対応であろうか。確かに登山者用の冬季間着用する服装は、登山に適している。それは登山中に使用し易いように作られているからである。それではボ-ダ-用の服装はどうであろうか。冬に使用するのであるから、寒さ対策面では登山用と同様だ。深雪を滑るボ-ダ-は、通常登りはスノ-シュ-を使用し、下りにボ-ドで滑る。ゆえに上りは登山と同様で、下りにボ-ド様に適する仕様になっている。下りの深雪の場合は、頭の上まで雪を巻き上げて、空気を切るように滑り降りている。丁度吹雪の中に居る状態を想像できる。吹雪状態に適した仕様になっているのである。それは登山者用のそれに勝る、とはいかないまでも同等であろう。

 スキ-ヤ-やボ-ダ-の着る服装は、登山者の服装と同様に、冬山の服装であることが分かる。確かに、登山者ではないので「冬山登山対応」とは言えないが、「冬山ボ-ド対応」の言葉は冬山の山中での防寒面では同意語と言えるであろう。

 

 (3)民間のスノ-モ-ビル隊への対応

    被告乙号証写・乙第3号証・10ペ-ジ・(10) 初七日における警察の説明から感じた疑問・・・・スノ-モ-ビル隊の出動を警察が断ったとの説明があり、そのまま出動して貰ったら救助出来たのではないか。 この件に関しては、捜索2日目の捜索中断後の夜のことで、悪天候と深夜での捜索になる旨を回答したところ納得した。

 1月31日に3名で積丹岳へ入山した一人の中村伸武さんの証言の一部である。

 このスノ-モ-ビル隊は、10数台の隊編成の用意をして、現地本部へ何度も「入るぞ」と連絡を入れていた。2月1日早朝からのことである。 

被告乙号証写・乙第10号証の1・北海道新聞記事  このスノ-モ-ビル隊の一部は、平成19年3月18日に積丹岳のスノ-モ-ビル4名死亡雪崩事故の際に、出動経験があった。この時は、道警救助隊現地本部に救助する旨の申し入れを行った。その後、現地本部から「ちょっと待て」「必要であれば要請する」などの返答があったが、それを無視して、単独で救助に向かっている。一泊装備を持たない雪崩事故の負傷者などを救出して、負傷者の生命を救っていた。救った現場は、隆一がストレッチャ-にくくりつけられて滑落した場所と同標高、距離は離れているが同じ斜面で、そこに至るル-トを熟知していた。

 今回においても、3名の入山者の友人から、事故当日の1月31日から「助けてあげて」「何とかしてあげて」と、救出要請の連絡があった。現地本部へ何度も「入るぞ」と連絡を入れていた。現地本部からの回答は、「ちょっと待って」「何かあったら要請するから」の返答で、現地本部からの出動要請は2月2日の朝であった。この時のスノ-モ-ビル隊員は、雪上車の通った跡のあるル-トなら、15分で積丹岳頂上やストレッチャ-滑落場所に達することが可能と話している。

 隆一さんの初七日に道警救助隊が家族や友人等に説明した内容と、実際の現地での実情は異なっている。

 

 (4)登山と登山愛好者の認識

    被告第1準備書面・36ペ-ジ・第3・1・(3)・ウ 元来登山なるものは、我々の日常生活とはかけ離れた場所における行楽活動であり、環境保全や測候の目的でもない限りは、社会生活に必要不可欠なものではない。
 北海道警察の「登山」や「登山愛好者」についての概念と思いを述べている。北海道に住む登山愛好者として一言意見を述べさせていただく。北海道民の行う「行楽」は、日常生活そのものである。その場所も、ヒマラヤの高峰などを除いては日常生活の範囲であって、ほとんどは北海道内の山岳のハイキングや登山である。ヒマラヤのトレッキングや登山も、毎年のように出掛けていく道民もいる。人口衛星を利用した気象観測の時代に、登山測候とはいただけない。

 登山は、山岳自然の中で行う行為である。登山者はその豊かな山岳の自然に感激する。休暇内で行う登山であるが、その充実感が生活そのものを充実させる。高度な生産性を伴う職場の仕事のストレスを解消して、元気に仕事をする源ともなる。その登山を続けることで、登山が生活の一部になる。

登山を含んだスポ-ツや芸術を文化と言う。登山は北海道民の文化活動なのである。

 北海道民の財産と生命を守る北海道警察である。ぜひ北海道民の日常生活と文化活動にも理解を示し、目を向けてほしいものである。警察官や警察職員の日常生活も豊かな文化生活であってほしいと願っている。警察官のご家族についても同様である。

 

 (5)道警救助隊の救助実力と歴史経緯

    被告第1準備書面・37ペ-ジ~38ペ-ジ・第3・1・(3)・オ・(イ) 各都道府県の山岳関連救助隊が組織される以前から、・・・・北海道の場合、各地方の山岳遭難対策協議会等が、山岳遭難者の救助活動に従事していた。その後に行政組織が救助隊を組成するようになったが、・・・都道府県警察の山岳救助隊がこれらの民間救助隊に劣らない技能を習得するようになったのは、近年のことであるが(乙16-「北海道警察山岳遭難救助隊規定の制定について」)

 昭和48年12月に北海道警察山岳遭難救助隊規定が制定され、その時点で山岳遭難対策協議会等の民間救助隊に劣らない救助技能を身に着けた、との説明である。又、被告第2準備書面・48ペ-ジ~50ペ-ジ  に道警救助隊の救助実績と訓練と出動実績が掲載されている。平成19年~21年の道警救助隊員と山岳遭難対策協議会員の出動状況が掲載されている。又一方、平成18年~21年1月の道警救助隊員の救助訓練状況が掲載されている。

 これらの掲載資料から、道警救助隊が救助訓練に参加するようになったのが平成18年であることと、道警救助隊員が捜索救助に出動するようなったのが平成19年からであったことが伺われる。出動総員の内の道警救助隊員の割合は、7.6%~8.3%であることが分かる。後方支援やヘリ要員の警察官と、救助隊員以外の警察官は38%~46%である。道警救助隊が他の民間救助隊員との合同での訓練や出動以外に、今回の様な救助の服装と装備を備えた道警救助隊単独出動については説明されていない。この積丹岳出動の約一ヶ月前の無意根山の6名出動が分かっている。

 37年前から民間救助隊に劣らない技能を持つ道警救助隊は、ごく最近に救助訓練を始め、ごく最近になって道警救助隊員を救助に向かわせていることが分かる。

   

4.要救助者が死に到った原因

(1)道警救助隊が救助隊員の発令をした時点から、救助隊が要救助者を見捨てて下山するまでの、救助隊の判断違いや判断ミス・行動ミス・過失・義務違反などを文書の下線で示した。

  下線ケ所は30ケ所である。

 

(2)ストレッチャ-にくくられた要救助者のくくりつけからの現状回復の義務

  這松にロ-プでつないだストレッチャ-が、何がしかの原因で滑り落ちた。このストレッチャ-には、寝袋に入れられた要救助者が「搬送途中に隆一がずれ落ちないようにストレッチャ-付属の固定ベルトで縛着した」と述べている様にくくりつけられていた。滑り落ちる途中で崖から転落したり木に激突して死亡したかもしれない。無事に生存していてもこのままストレッチャ-のくくりを解かなければ、生きていた要救助者は凍死する。寝袋は保温効果があり、自分で這い出すことが可能だ。しかし、ストレッチャ-のくくりつけは、要救助者が自分で解くことができない様にくくりつけられている。くくりつけの為に寝袋から這い出ることもできない。くくりつけた時点で、そのくくりつけを解く義務が発生したとするのが正当であろう。  

 救助隊が雪庇から転落して二次遭難し、その後ストレッチャ-引き上げ時に滑り落す失態だった。宿泊装備を完備していない状況でビバ-クせずに下山する判断をしたとしても、少なくともストレッチャ-から要救助者を解いて、その前の現状に復帰させる義務を負うものと思われる。救助隊が緊急に脱出する状況であったと説明しているが、どうであろうか。雪庇から4名が転落した時に、4名の重量やそれぞれの雪への刺激でもなだれなかったこと。又、続く要救助者を含む4名がストレッチャ-を引き上げる重量と刺激にもなだれなかった。この斜面のなだれる危険度は弱層テストをしなければ判明しないにしても、少なくともこれらの重量と刺激では安全であることがわかったのである。その場に居た救助隊員達は身をもって知っていたはずである。ストレッチャ-が流れ下った下方へは数分からゆっくり歩いて下ったとしても10分はかからないであろう。ストレッチャ-から要救助者を解いて雪洞を作成すれば救助隊員と共に安全に一夜を過ごすことができる。稜線から風下側の斜面は、稜線直下10mを除いて雪洞作成に最適の場所である。

 這松からストレッチャ-が外れたのは救助隊のミスとしても、ストレッチャ-のくくりを解かずにそのままでは死亡することが分かっていながら放置するのは、義務違反である。そのままでは死亡することが判っていたのであるから故意とも言える。

 

(3)義務違反・過失・ミスの連鎖

   職場内での死亡事故には一定の法則がある。一件の死亡事故には数十件の危険度の高いミス。そして数十件の重度の事故には、事故に至らない百数十件・数百件のヒャリ・ハットがあると言われている。このことは、山岳の事故にも当てはまり、山岳会などが組織的にヒャリ・ハットの減少、撲滅に努めているのである。遠回りの活動に見えるが、事故防止に最良最短の活動である。

 山岳の死亡事故は、一回のミスで死亡する場合もあるが、多くの場合は軽微なミスから始まって、その最初のミスがなければ次のミスが発生しない様に連鎖的に、最後に死亡に至ることがある。この意見文書の最初に触れているが、救助隊の入山する場所は、天候や地形など遭難が発生している危険な場所へ捜索・救出の目的で入山するのである。山岳救助隊が安全に活動するためには、それなりの体制が常日頃からとられていなければならないし、救助隊の安全を保ちつつ要救助者を救出するための体制が求められている。救助に向かう人員数と装備、そして隊員の知識と技術が大切である。今回のこの道警救助隊体制そのものの知識不足や、現場の救助隊員の知識・技術不足から遭難者を救出できなかった。

 

おわりに

 この積丹岳での北海道警察救助隊の活動は、人員不足と装備不備や数々のミスや義務違反があった。最初に計画・準備した一泊装備の、それに伴う隊員数の間違い。そして現場で対応する救助隊員の低体温症や雪崩事故防止の知識不足があった。これらの救助隊体制が整っていたなら、次々と発生するアクシデントにはいたらなかったであろう。

 道警救助隊の積丹岳出動での準備活動と救助活動から判明したことは、救助隊本部員や山中の救助隊員の登山や山岳救助に関する知識と技術の無さである。現在の民間山岳救助隊や山岳ガイドの救助は、現実の遭難状況を想定した訓練が続けられており、山岳ガイトは北海道のガイド資格の取得が条件となっている。要救助者が救助隊と共に二次遭難して双方共に死亡した例はあるが、遭難者を救助隊のミスや責任を果たせずに死亡させた前例は聞かない。

 道警救助隊は、積丹岳救助失敗のその前にも捜索救助活動での失敗があった。道警救助隊は、専門的な知識と技術を持つ山岳団体などの民間の救助隊と交流するなど、早急な救助体制の完備が求められている。そして、道警救助隊の隊員選任には、一例であるが、北海道アウトドア活動振興条例に基づく北海道アウトドアガイド資格取得を隊員資格条件とするなど、適正判断の客観性透明性を求めたい。

 我国の司法制度は広い意味での社会科学の分野に属するだろうか。自然科学の分野では、公害などから市民が死亡する事態に歯止めがかけられている。1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国際連合・環境と開発に関する会議で「生物の多様性に関する国際条約」が締結された。日本では93年12月29日に国会で批准。以後、条約批准に基づいた関係法令の改定が続いた。この国際条約に至るまでには、国際世論としての不要な開発反対運動や公害撲滅運動・公害訴訟など、市民の命を守る活動があってのことである。この国際条約の果たしている理論は、それまでは「分析による遅滞」と言う、「危険が判っているが科学的な結論が出なければ止められない」理論であった。それが「予防原則」の理論に変わった。危険が判明した時点で元をとりあえず止めることとなったのである。現行の司法制度である法の適正なプロセスが、北海道警察山岳遭難救助隊に「予防原則」を示すことを期待したい。

 

添付書類

 北海道アウトドア活動振興条例

 北海道アウトドアガイド資格認定の基準

                     

平成23年(2011年)3月26日作成                   

提出者 小山健二