那須温泉ファミリ-スキ-場コ-ス外雪崩死亡事故 その2
高校山岳部合同春山安全登山講習会
4月7日にこの雪崩死亡事故の一回目を書いてみた。
死亡事故から二週間以上経過。今回は前回触れなかった事柄で、新たに報道などで問題になっていることを考えてみたい。
雪崩死亡事故の概要
2017年3月27日午前8時30分ころ、栃木県那須町・那須温泉ファミリ-スキ-場のコ-ス外上部で雪崩発生。
栃木県内の高校7校の登山部が参加して春山安全講習会を開催。講習会当日は7校を5班に分けて講習をしていた。
参加していた指導員教師を含む48名が雪崩に遭遇。男子高校生7人と男子教員1人の8名が死亡。生徒と教師合わせて40名が負傷した。死亡したのは、県立大田原高校の生徒と教員。
この雪崩、自然発生なのか人為的雪崩なのかは不明。雪崩発生の上部に登山者などの 人が居たかどうかも不明。
前日26日からの積雪は30cmを超えていた。雪崩事故現場より上部は50cmの新雪とも云われている。
二泊三日の日程で入山、スキ-場の下部にテントを設営して宿泊。事故当日は夜間の積雪があり、午前7時30分から予定していた茶臼岳春山登山を取りやめてラッセル訓練に切り替えていた。
県立大田原高校の生徒と指導に当たった先生が一斑で、先頭で前日から積もった深雪をラッセルしながら進み、尾根上に上がってから全員が休憩している所に、その先の斜面から雪崩が押し寄せ、雪崩デブリに最大で2m埋没している。
登山を四季で区切った登山概念や登山活動があるのだろうか。冬山登山禁止をどのように考えれば良いのか。
高校登山部の冬山登山禁止や春山講習会など、冬山や春山と云う登山の季節をどう捉えるかの議論があるようだ。
前回のブログに高校教育委員会が冬山登山禁止したため、冬山の知識や技術の習得機会がなく、積雪期の特に雪崩の危険回避が困難、と書いた。
高校生の登山は原則自由でなければならないが、高校登山部に限っての登山禁止を少 し考えてみたい。
私は登山活動は原則自由だと考えている。憲法の保障する基本的人権としては、登山は権利として主張できるだろう。
高校生は親の保護があり、経済的には親のお金で登山することになるので、親の承認が登山活動の前提となる。私は高校生から冬山登山を始めて、今日まで50年も冬山を楽しむことができた。白石区菊水の日量製パンでアルバイトをしていたので、冬山登山装備はアルバイトの賃金で購入していた。
冬山登山禁止は正当か
文部省や地元の教育委員会が高校登山部の冬山登山禁止を決定し、各高校登山部へ通達するプロセスのようだ。登山活動を季節を区切って捕らえることがどうなのだろうか。
季節は春、夏、秋、冬の四季節に分かれる。これを危険度の高い季節を選び出して、日本の場合は、冬山登山が危険と判断している。これは単に文部省や教育委員会が判断している。
登山を四季に分けて登山活動すること自体がおかしいのでは、と考えることもできる。
冬に関しては確かに気象は、他の三シ-ズンと比較すると、寒さは一番寒い。しかし、雪はサラサラでヤッケなどから、その水分が体内に染入ることがなく、体を濡らす雨に比べると登山し易い様に思われる。寒さから身体を冷やす低体温症については、冬の低温と他の三シ-ズンの体を濡らす雨とは、雪と雨の違いがあって、どちらもどっちで危険が高い低いで比べられない要素のように思われる。
低山では、冬以外の三シ-ズンでは登山道以外の登山が困難さを増す。登山道以外を歩いたり攀じったりでは、藪や森林帯や崖などの困難がある。それに比較すると冬山は、積雪で藪や森林帯が自由歩行が可能になる、利点となる。
それでは今回の事故の原因である雪崩について考えてみよう。雪崩は積雪期に限られる危険。なので、冬山登山禁止の条件にはならない。秋山登山でも標高の高い高山は、降雪があって積雪状況になる。春山は勿論低気圧の通過時や通過後には降雪があり、冬山に戻る。勿論残雪が残っている。
こうして登山と季節について視てみると、こと雪崩の危険に関しては雪の無い夏山を除いては、秋山・冬山・春山の三シ-ズンがダメということになる。
ここで、冷静に考えてみる。文部省や教育委員会は、どうして冬山登山だけを禁止にしたのだろうか。
私は今日までNPO法人北海道雪崩研究会に所属して約23年間、専門的な雪や雪崩の研究を続け、毎年北海道雪崩講習会の講師をしている。現在研究会内には講習会講師が40人ほど居て、専門的な知識と技術を身に着けている。
私は、山に雪のある残雪期は全期間に雪崩の危険があると思っている。するとたぶんだが、文部省や教育委員会が冬山登山だけを禁止するのは、雪崩以外の冬に限っての危険回避を目的としいるのだろう。それとも、文部省や教育委員会は秋山や春山には絶対雪崩は発生しないと間違った知識の人達が「冬山登山禁止」を決めていることになる。
登山や雪崩に関する知識を持った人が居ない文部省や教育委員会が、登山禁止の指示をする前提の判断をしていることになってしまう。仮に雪崩の知識と雪崩回避の技術を身に着けた人が文部省や教育委員会に居て、その人が登山禁止の判断をしていたのなら冬山だけを禁止にしたのは間違っていたことになる。高校の登山部活動として雪崩の危険を100%回避するためには、秋山や春山も冬山と同様に登山禁止にすべき。
私は考える。本当に高校生達を登山の危険から守りたいのであれば、四季を通じた登 山活動の危険回避の知識と技術を身に着けさせる講習会が必要と思う。
登山活動は自由に行えるのに、高校登山部だけ「冬山登山禁止」の現実がある。私が高校生だった時の様に、今の高校生達は、親の承認のもと個人や仲間で冬山には入れる。その登山や危険回避の知識と技術取得の機会に恵まれていないのである。
ネパ-ル登山の四季
海外の登山情報としての四季登山を見てみたい。
私が知っているのはネパ-ルの登山。ネパ-ルには世界の8千m峰14座の内8山が鎮座している。神々の山々と呼ばれている。
日本での積雪期を考えると、秋から雪が降り春の残雪期までになる。世界最高峰のエベレスト8848mが聳えるネパ-ルの積雪期を考えてみる。どうなるのだろう。一年中雪が積もっていて、雪が消えないで積もり続ける結果として氷河の氷になってしまう。そう雪崩は一年中発生していることになる。
ネパ-ルの雪崩は二種類ある。日本と同様の雪の雪崩の表層雪崩と全層雪崩が一つ。他の一つは氷河雪崩。
氷河は氷の河と書くように、刻々と一枚の氷が水の川が流れるように流れ下っている。 その氷河にも懸垂氷河と云われるものがあり、急傾斜斜面に張り付いている氷が、せり出す部分が折れて崩れ落ちる。日本の雪崩は雪が崩れるのだが、ネパ-ルの氷が崩れるのも雪崩と云う。
私が1991年ポストモンス-ンにネパ-ル・アンナプルナヒマ-ルのアンナプルナⅠ峰8091m登山の際に遭った雪崩は、この氷河雪崩だった。標高差2千m、距離5千mを駆け下った氷雪崩は、途中で氷が砕け散り、私達が日向ぼっこをしていたベ-スキャンプを猛吹雪となって通り過ぎて行った。東京ド-ムの何分の一かのハンググレッシャ-の一枚氷がグラ-と墜ちる様子を見ていた登山隊員達は、その恐怖を感じて一目散に逃げた。幸いにBCまで何十秒間の余裕が有り時速数百キロmの速度で襲いかかる猛吹雪の雪崩から、BC背後に林立する岩場の影に身を隠すことに成功した。この雪崩の様子は、氷雪崩発生直後から迫りくる寸前まで八ミリカメラが捉えていて映像が残っている。
ヒマラヤの雪線は何メ-トルか
気象を勉強すると、高度が100m高くなると0.6度C気温が低くなることを学ぶ。この算数式からだと、標高0mで20度Cの気温だと、0度Cになる標高は約3300mになる。札幌が20度の温度なら、空高く3300mでは氷点下だ。パキスタン・インド・ネパ-ルなどの亜熱帯の国は、冬期間では平地でも20度C以下にはならないから、ヒマラヤの山々の3300m以上では雪になる。ネパ-ルのエベレスト街道の玄関口ルクラ(テンジン・ヒラリ-)飛行場2800mも冬には雪が降つて、飛行機の離着陸ができずにフライトキャンセルになる。キャンセルが数日続くとルクラの村には、カトマンドゥに帰れない人々が数千人にもなって、国際線の帰国日が迫り十数人乗り双発機チケットの争奪で喧嘩沙汰が見られるようになる。片道50万円のチヤ-タ-ヘリコプタ-がジャンジャン飛ぶ事態になる。
ネパ-ルの山の氷河は4千m位まで流れ下っていて、雪が現れるのは5千m位。
話がじゃんじゃん横道に入っているので戻ろう。
ネパ-ルの四季登山はどうなっているのか。ここまでの説明の通り、ヒマラヤの雪崩の危険に四季はないのが分かるだろう。ヒマラヤは一年中なだれる危険に満ちている。ここでちょっと余談だが、私は雪崩を名刺での表記は「雪崩」と書き、動詞はひらかなの「なだれ」と書くようにしている。書物の小説でも作者によっては、私と同様に名詞と動詞の表記を変えて書く人がいる。
ネパ-ルの観光省登山局の登山法律によれば、四季についての規則があり、登山者がネパ-ル政府に納付する登山料が四季によって異なっている。
ネパ-ルの登山料は下記のようになる。
外国人クライマー一人あたりのドル支払の登山料 (1チ-ム15まで)
山 域 春季 秋季 冬季
1. エベレスト ノ-マルル-ト 11,000ドル 5,500 2,750
2. エベレスト ノ-マルル-ト以外 10,000 5,000 2,500
3. エベレスト以外の8千m以上山 1,800 900 450
4. 7501m~7999m 600 300 150
5. 7000m~7500m 500 250 125
6. 6501m~6999m 400 200 100
7. アマダブラム峰(6812m) 400 400 200
8. 6500m以下の山 250 125 70
パキスタンやインドでもネパ-ルと同様の登山料規則がある。
日本の文部省や教育委員会は登山を四季で区切って考えている。私はこの考え方を理解するのは難しいと思っている。「冬山登山禁止」についても、禁止する内容が判らない。冬は危険だからとの理由なのだろう。
ブログのトラブルで写真掲載できなくなっている。
今日も写真を掲載したいのだが、後日直ってから写真掲載再会する。